▲一生で全部使う人のことを届ケニスタと呼ぶ(大嘘)
結婚したら婚姻届を出す。
離婚したら離婚届を出す。
子供が生まれたら出生届を出す。
家族が亡くなれば死亡届を出す。
この辺はゼクシィや終活本に載ってるので分かる方も多いでしょう。
では、姻族関係終了届は？
※WARNING!!※
以下、食事中に読むと極めて不快になるものや、
単純に胸糞悪いものがあります。
苦手な方はブラウザバックを強く推奨します。
また、各種非常に長い内容になるため、
折り畳んで表示しております。
ご興味のある内容から
クリック・タップで広げてご覧下さい。
なお、個人の特定が不可能になるよう、
全て複数人の話(他自治体職員含む)を
混合して記述しております。
パッと回答できた方は、役人もしくは舅・姑と修羅場った人とお見受けする。
姻族関係終了届は、『配偶者が死んだ後に出す離婚届』です。
びっくりした方もいると思います。
そう、配偶者が死んでも婚姻関係は継続するんです。
まあ相続の知識があれば「そりゃそうか」って感じではあります。
死んだ瞬間に婚姻関係が無くなるなら、相続で配偶者は真っ先に切って落とされますからね。
『離婚届』という言い方をしていることからもわかる通り、これを出すと配偶者の親・兄弟・祖父母・従兄弟・甥姪・その他一族郎党とは全くの赤の他人になります。
赤の他人にしたい程、そいつらと何かあったということですね。
今回はそんな感じの、ごく普通に生きればまず使わないであろう特殊な届出をご紹介。
●一部に筆者の偏見を交えます
①全てが分からないってどういうこと？ 死亡届
グロ注意
▲イメージ。ちなみに届出書の画像は、
職場から書類を貰って
実際に記入して作っていく
のっけからゲロゲロにハードなものを持ってきました。
凄いでしょ、コレ……
私が現職に所属して一年目、指導係の方が所持していたのを目撃しました。
『保留』と書かれたクリアファイルに入っていて、それまで死亡届なんぞ見たことの無いガキにでも異常性はビンビンに伝わってくる。
……分かりましたか？
名前・生年月日・住所が不明なのは身元不明者にはよくあるにしても、書類のこの部分。
▲性別、死亡年月日が……
性別が、不明。
死亡年月日も、不明。
その辺りすら絞れなかったのです、液状だったから(※リンク先大変にグロテスクな説明有、最大警戒を)。
要するに詰み。
どうせもう時効だろうけどねーそろそろ係長に相談するわ、と面倒臭そうに言い捨てていました。
なお現在、この書類は係長が引き取ったため、私にはその行く末が確認できません。
②死亡届ではない！？ 死亡通知書
きっと寂しい死に様だ
▲普通の死亡届と見せかけて違うっていう
▲こちら比較用の普通の死亡届
①の例よりは身元がはっきりしているだけまだマシですが、それでもちょびっと悲しさがあるのがコレ。
見比べてみてください。
何が違うか、分かりますか？
▲「届出人」の欄だ
あらゆる戸籍の届出というのは、ちゃんと法律で「届出を出せる人間」が決まっています。
死亡届の場合は、
・親族、同居者
・家主、地主、家屋管理人、土地管理人等
・後見人、保佐人、補助人
・任意後見人・任意後見受任者
要は家族及び家族並に面倒を見てくれる人、一緒に住んでる人、死体が上がった場所を管理している人が出せるのですね。
ではもし天涯孤独かつ、死に場所の管理者がいないか怠慢していたら？
死体はもうそこにあって、取り敢えず斎場か解剖施設に送らなきゃいけない。
そんな時にいちいち死亡届出せる人間なんか探していられません。
そこで、「取り敢えず『この人が死にました』ってことだけは戸籍と住民票に反映して下さい」という届を公の人間が提出して、諸々の手続きを同時進行しようって訳です。
公の人間＝ケースワーカー、警察官、医者、etc……
同時進行したところで、こういう人には「本来死亡届を出せる人間」が出てこないことが多い。
だからこの届が出されると、入力する前に少し考えてしまいます。
この人は今際の際に、良い人生だったと思えただろうかと。
③どうして何回も？ 養子縁組届・養子離縁届
どういう目的で……？
▲別にこれ自体はいいのよ
養子縁組という言葉は、もういい加減市民権を得てますかね？
養子離縁は「養子縁組して成立した親子関係をやめる」という程度のもので、ちょっと馴染みがないかと思います。
よくイメージされる「本当にのっぴきならない理由で子供を育てられない人や虐待する屑親から小さい子を引き取る」というのは、特別養子縁組というあくまで一部分の制度。
普通養子縁組という、そこそこ大きい子や大人を自分の子にするというものもあります。
声優の速水奨氏の例が分かり易いか(2008年に、計算すると当時18歳である甥・速水秀之氏を養子に迎えている)。
※筆者注：特別養子縁組の特例(15歳以上申立)か普通養子縁組かは、当方の調べでは確認できなかった。あくまでも「養子縁組は小さい子の話だけではないよ」という参考としての例示であることをご理解頂きたい。
そもそも養子というシステム自体、日本では大宝律令が最初という説があるくらいに歴史あるもの。
跡継ぎのいない武士が家を存続させるため、急遽死際に養子を指定するなんてやり方を取ったこともあります。
子供サイドはいきなり何の縁も所縁も無い輩から財産を貰えるという、古くからあるWin-Winです。
もう一回言います。
養子縁組はWin-Winです。
そう例えばアシがつかないように他人の子のふりをしたりとか人の財産をモロパクリするために懐に転がり込むとかな！
▲こういう戸籍の奴がいるんだ実際！！
ここ大事よ！
家族に迎えたい人がいたら、そいつの戸籍抄本を取って下さい！！
もしもその戸籍が上の画像みたいになってたら、そいつ間違いなくヤバい奴です！(偏見)
人の養子になるって結構な一大事のはずで、あっても一回が良いところ。
それを縁組→離縁→縁組→離縁……と繰り返しているのは何でかっつったら、縁組しないとやれなかったこと(＝相続、戸籍作成後にその謄本を高値で販売等)が終わり用済みになったから、次のカモを取りに行っているというだけの話です。
縁組と離縁の間に養親の死亡が入っているパターンが複数個あったらほぼ確実です。
即刻そいつと縁切りましょう。
次にやられるのは貴方です。
④火葬の許可を貰うためだけに…… 死産届
記憶にしか残らない子
▲この届出のみ異質
この話を、こんなふざけ倒しているブログで扱って良いものか暫く考えました……
死産届。
もう響きからして悲愴。
分娩室での出産が完全に『「中のものを出すだけの作業」になる(※ある患者さんが実際に言われたコメント)』と、それを突きつけられた母親の皆様におかれましては……
経験者以外がその心中を推し量れるはずも無いし、推し量ったつもりで接して良いものでもありません。
だから敢えて事実だけを、冷酷に書かせて頂きます。
これ、届け出たところで何が起こるかと言えば、埋火葬許可が降りるだけです。
国保にしろ社保にしろ健康保険入ってれば葬儀費の補助が出ると思いますが、届出により直接関わってくるものなんて葬儀していいかどうかのみ。
どういう意味かというと、己の戸籍に、その子の情報が載ることはありませんってことです。
社会からすれば、母体の外で一秒たりとも生存していないもの＝「最初からいませんでした」。
だから戸籍に載せる必要も無いし、ていうか載せてどうすんの？ という態度なんですね。
当然、命名をする必要もありません。したところで、何処にも残りません。
……じゃあ何故、死産届なんてものがあるんですか？
そう思った方にはこの法文をお伝え致します。
昭和二十一年厚生省令第四十二号（死産の届出に関する規程）
第一条：この規程は、公衆衛生特に母子保健の向上を図るため、死産の実情を明かにすることを目的とする。
死産届って、必ず死産証明を病院に書いてもらうんですよ。
▲コレ。死産届についてる
何週目の胎児ですとか、こういう理由で死産でしたとか。
その積み重ねで、将来の誰かの出産時やそれに向けての期間に、役所や国が出来るサポートが変わっていくかも知れない。
そのサポートのお陰で、悲劇が減っていくかも知れない。
だからもし読者の中に、死産届を出すことになった方がいらっしゃれば、事実としてこれだけは覚えておいてください。
貴方が出すその届で、将来の誰かが助かる可能性が少しだけ上がります。
届け出てくれて、ありがとうございます。
⑤刹那の瞬間、親子になれたね 出生届同時死亡届
僅かな時を共有した
▲おー出生届だ……あれ？ もう一枚ついてる？
▲何これ……もうやだ……
これが送られてきた時、本当に入力したくありませんでした。
勘弁してくれと。
しかも、
※除票：住民票の転出者・死亡者バージョン
もうさ……喋んなきゃいけないじゃんよ、その渦中にある人とさ……
この届出は、④とは別ベクトルのクるものがあります。
生まれはして(社会にとっては一度でも存在して)、でも当日中に死んだ。
こうなると④とは違い、命名しなきゃいけないんですよ。
ただ戸籍に「○○ちゃんは死にました」と載せるためだけに。
④と比べりゃ記録に残るだけマシとか思った画面の前のオヌシ、
比べられますか。
自分や家族が全員死んだら、記録にも残らないことになる名も無き子。
何かにつけて戸籍謄本を取る度、目に飛び込んでくる死んだ子。
どっちの方が悲しみ度が高くて可哀想とか、言える人いんのか？ おい(威圧)
▲ちなみにこの届出時における
役所職員の態度は二分される
しかし「残念でしたね」等のコメントは禁句なので誰も言いません。
言ったって何にもならないもんな、実際……
さて問題の除票を取りに来た方について。
お客さんは何も言わず、黙って私が指さす続柄の「子」の字に目を落としました。
何度か指でなぞり、ぽそりと「子……」と呟く。
推し量ったつもりでいてはいけないものですが、あの人が幸せになれるといいなと願います。
⑥貴方は一体何処の誰？ 就籍届
いるのに「いない」人
▲い、今更？
無戸籍者、という言葉、皆様聞いたことがありますかね？
字面通り「日本人なのに、戸籍が存在しない人」です。
主に生まれた時に親がやらかしており、
・忙しさにかまけてたら出すの忘れてた
・産んだは良いけど相手が暴力振るうのが嫌なので出さない
・離婚後推定(子の父親が前の夫と目されること)が嫌だから出さない
などなど、「お前それ子供に面と向かって正当化できんの？」と言ってやりたい事例がポロポロ。
特に二番目の例に当たる方は、神速で児童相談所に肩から滑り込んで頂きたい。
三番目は家庭裁判所にタックルだ。
さて日本人である以上、生活全てが戸籍ありきで進んでいく……と思いきや、意外や意外、そんな有様でも住民票は作れちゃいます。
住民票が無ければ全ての行政サービスが受けられませんから、命に関わるのでよろしくないということで、仮に無戸籍なら住民票に「本籍：なし」「筆頭者：なし」と書かれてスタートする。
だから何処かで住民票を取れば嫌でも目に入ってくる。
もう一回言います。
住 民 票 が 無 け れ ば
行 政 サ ー ビ ス が 受 け ら れ ま せ ん
当然、この中には保健所や学校が入っています。
だから届を出し忘れた上に住民票を登録し損ねているうっかりさんでも、普通気付くんですよ。
医者から言われた一歳児検診のチケットが保健所から送られてこないとか、就学時健診の案内が来るはずなのに来ないとか。
だが、度を超したうっかりさん＝親がガチのアホか放任スタイルのバカだった場合、それでも気付かない！
んで「うちの子はホームスクールだから～」とか何とかヌかして、どこで見つけてきたんだか分からないようなオンラインスクール(笑)でお茶濁してるとですね、発生するんですわ。
結婚する段になってやっと戸籍が無いことに気付いた大人がよ！！
いきなり順番無視して横入りしてきた男性に驚愕しつつ、順番守って一回下がれと指示(※画像はイメージです)。
後にその男性を呼び、話を聞いてみました。
婚姻届を出そうとしたら、『本籍地』という欄がある。
本籍地とは何かと届出の窓口にいる職員に尋ねると、「己の戸籍がある場所で、大体は両親のところに入っているはずだ」という。
そこで親に戸籍を取って貰うと(何せ本籍地が分からないので)、何と戸籍に己がいない。
一緒に見ていた親が一言、こう言った。
「あ！ あんたの出生届出してないわ！！」
さあ大変だ。
調べてみると住民票も無い！
この話がどう回り回ったか相手方の親にまで伝わってしまい、相手方が猛反発。
「届出もきちんと出来ず、真っ当な生活も送ってきていないであろう男などに娘をやれるか」と怒り心頭。
本人達は婚姻する気満々なのに、会って話し合おうとすると相手方の親が先回りして妨害してくるという有様に。
婚姻届を出してしまえばきっと……と思いつつも、しかし戸籍が無いのだから出すことも能わず。
そこで戸籍を適当に作り、とっとと婚姻届を出してしまおうと今に至る。
※大変な常識外れさんだったので、以下、プライバシー保護の観点から全て写真ACよりお借りしたイメージ画像でお伝え致します。
まあ、人生いろいろ。
何処でどういう風に悪い意味で噛み合ってしまったのか、本当にこの人知らないご様子。
就籍届の書類と家庭裁判所の連絡先を渡し、「今すぐ家庭裁判所に問い合わせて下さい」と私はなるべく穏やかに言いました。
何らかの理由で戸籍が存在しないのが分かっても、今更出生届など出せません。
出生届は生まれてから二週間以内に出すと法律で決まっているので、大人になってから出そうとすると「ウェ！？(驚愕)」と言われます。
そこで「戸籍に就く」＝就籍を家庭裁判所に申し立て、無事許可が降りたら就籍届を役所に出して新しく戸籍を作る、という流れ。
※条件次第で出生届が出せる場合もある。要確認。この男性の場合、親が一人ご存命かつ意識明瞭のため、遡って出生届を出せる書類が揃うかもしれない。勿論、書類が揃わなければ就籍一本。
意気揚々と笑顔で立ち去っていきました。
……大丈夫かなあ……年に数百件は「不受理」、即ち「目の前にいる貴方は日本人として存在しないことにします」って言われるんだけど……。
⑦僕はここにいる！！ 失踪宣告取消届(失踪届の話も少しあるヨ)
生きてるのに「死んでいる」人 ※本記事中最長の文章量、お覚悟を
▲書類は失踪届と同じものを
使うという引っかけ
どこにいるんだか分からないけど、死体は上がってきてない……
かといって連絡も付かないから、いろいろお金とか物とかの処分が進められない……
そんな貴方に、失踪届をご紹介！(通販番組風)
これがあれば生死不明の人間を書類上死んだことにしてしまえます！
いろんな物をどんどん処分したり、伴侶は速やかに次の方を探しに行けたり、残された方々にとって良いことしかありません！
さあ、今すぐご記入を！
……なんていう軽いノリで書いて良いものではありませんが、失踪届とはそういうもの。
どっか行ってしまって碌に連絡も寄越さないアホタレ生死不明の人間が一人いると、それだけで大迷惑なんですよ。
残された所有物は売っ払っていいのか？
残された家族を今支えてくれている方と結婚していいのか？
残された借金を取りにやって来るヤクザ債権者には何て言えばいいのか？
いつまで待たなきゃいかんのか？
なまじ法律なんつーものがあるために、そいつ一人のせいでいろんなことが詰むんですよね。
そこで裁判を経て書類上「社会的にいなくなった」＝「死亡」扱いにし、いろんな法的手続きをバンスカ進めてしまいましょう、というのが失踪届。
だからこれ出される人って相当なもんですよ。
ただ……無責任な馬鹿野郎だけではないというのは、皆様も予想がつくと思います。
記憶喪失。
そこに陥ってしまった人とは、連絡を取れるはずがありません。
もしかしたら本当に家族が探していたけれど、どうしようもなくなって失踪届が出されただけかもしれない。
出された当人は自分を探している人物がいるとは思えず、彷徨っているだけかもしれない。
そういうすれ違いが発生してしまう可能性が高いのも、この届出の特徴です。
ある日、就業時間間際になって、出入り口付近が騒がしくなりました。
「まーたおかしい奴がいるよ」と思っていましたが、よくよく聞いてみると単語が妙です。
大声の主(以下、客)「僕は○○です！！」
警備員(以下、警)「何だアンタ、警察呼ぶぞ！？」
客「○○なんです！ ××ではありません！」
警「いい加減にしろアンタ！ 頭おかしいんじゃないか！」
係長に話してみました。
私「あの人、何か変ですよ。よくいるキチガイでは無いような……」
係長(以下、係)「んー……ちょっと様子見に行こうか。あのまんまじゃうるさいだけだ」
で、その人を取り敢えず出入り口から近場の椅子に座らせて、まあ落ち着けと切り出しました。
係「お客さん、どうしたんですか。まだ開庁時間ですし、お話を伺いますよ」
客「……僕、××って名前じゃないんです」
係「はい」
客「本当は○○というんですが、××という名前で戸籍を作って住民票も作ったんです」
私(ん？ 偽名で登録したってことか？)
客「でもさっき、○○という名前だったことを思い出したんです。じゃあ何で××なんかで作ったのか、訳が分からなくなって……」
私「『思い出した』？ お客さん、失礼ながら記憶が……？」
客「はい……本当はH市に住んでいたんですが、確か、逃げてきて……」
係「これは大ごとかもしれん。清水、この人の情報見てくれ。最初はどうなってる？」
お客さんの住民票作成の履歴を見てみると、最初にこう書かれていました。
『住所設定』
私(ゲエェー！！ 出生でも転入でもねェ！！)
これどういう意味かというと、
・B市で生まれた＝出生
・A市からB市へ引っ越してきた＝転入
・取り敢えずB市に住んでることは確定してる＝住所設定
普通は出生か転入で住民票は始まるはずなんですね。
しかしそれを悉く使えない事情があると、「取り敢えず今B市にいるのは確定している」ことから新しく住民票が作成された＝住所設定と書かれるんですよ。
悉く使えない事情……そう、今目の前にいる人が、何処から来た誰なのか分からないとかね！
その後、この人も落ち着きを取り戻してきて、少しずつ話が見えてきました。
気がついたら役所の前にいて、記憶を全て失っていたこと。
身分証も全てロストしており、警察に保護された後に仮の戸籍を作ったこと。
住民票も登録し一旦生活保護を受け、徐々にアルバイトを始めるとやがて正社員登用となった。
生活保護を抜けて、取り敢えず自分のルーツが分からないながらも、ようやく安寧を得た矢先に……
脳内に突如、○○という単語が浮かんだ。
それを口に出してみると、自分の幼少期・学生時代・新社会人としての記憶が、妻子の顔が、逃走する羽目になった事件を起こした犯人の顔が、突如頭に濁流となって流れ込んできた。
××として過ごしている自分と○○であった自らがない交ぜになり混乱し、遮二無二役所に駆け込んだ。
きっと役所ならどうにかしてくれると、それだけを信じて。
私「○○さん、貴方の生活保護を担当していたケースワーカーは誰ですか」
客「ヤマモトさん(仮)です」
私「わかりました。ヤマモトを呼んできます。今後の手続きについて話し合いましょう。この後の予定は？ お時間は問題ありませんか？」
客「大丈夫です。……閉庁ギリギリにすみません……(※この時点で閉庁の鐘が鳴っていた)」
私「そのために役所があるんですよ、お気になさらないで下さい。係長、これ戸籍から調べることになりますね」
係「そーね。しかしお前もよく当たるねえ……ヤマモトは俺が呼んでくるわ。清水、ここにいてやんな」
手近なパソコンで、お客さんが××の名で載っている戸籍を調べると、やはり最初は『就籍届により記載』等と書かれている。
それが違うと分かった以上、この戸籍は速やかに抹消しなければなりません。
しかし今はまだお客さんの申出しか無いので、まずは「本当に○○なのか」からスタートすることになります。
この判別をするのは裁判所です。役所ではどうにもできません。
ヤマモトさんを連れて係長が戻ってきたので、今後の手続きを整理しました。
①元々戸籍があったかを調べる
就籍届で作られた戸籍を廃止するためには、まず「○○さんに元々戸籍があったか」を調べる必要がある。
無戸籍なら今の戸籍を修正してそのまま使えばいいが、結婚していたという記憶があるのだから、きっと元の戸籍は存在する。
まずはその戸籍を調べて、「失踪」の二文字の有無を確認すること。
・「失踪」の二文字が無い
→××の名前で作られた戸籍を廃止して終了。家に帰ろう。
・「失踪」の二文字がある
→②へ
②失踪宣告取り消しの審判を受ける
「失踪」と書かれている場合、書類上死んでしまっているので復活させないといけない。
○○が生きている証拠を集めて裁判所に提出し、審査を待つことになる。
これは膨大な時間と手間と金がかかるので、必ず弁護士に依頼し一緒に行うこと。
・審査結果、「復活」と認められなかった
→弁護士と共に証拠集めから再スタート
・審査結果、「復活」と認められた
→③へ
③失踪宣告取消届を提出する
裁判所から告示文(＝審判結果を端的に書いた公文書)が貰えるので、それを持って戸籍担当窓口に向かう。
専用書類を貰ってその場で書いても良いし、一旦落ち着けるところでゆるゆる書いてもう一度向かっても良い。
使う書類は冒頭に一行だけ書いた通りまさかの失踪届と同じなのでビビる人もいるが、ちゃんと後で「これは失踪宣告の取り消し届です」と書かれるので心配は無用である。
私「……以上が手続きの内容ですが……大丈夫ですか、○○さん」
○○さんの顔色があまりよろしくないので、そう聞いてみました。
客「ええ……いえ……」
元・担当ケースワーカーのヤマモト(以下、ケ)
「記憶が戻って良かったなあ！ と言いたいところだけど、家族のことが心配よな」
客「そ、そうです。それに、犯人のこと……」
ケ「警察にも話さないといかんね。失踪届を出した奴が気になる。だって生きてると信じてたら、そんなもん出さないでしょ？ どうなんです、係長」
係「まあ、書類上死なす必要に迫られるのは、大体金関係だからな……」
客「誰が書類を出したかって、分かるものなんですか？」
私「開示請求をする必要がありますが、それも手間がありますから」
ケ「多分その辺は必要があったら警察がやるんじゃない？ とにもかくにも復活させるのが先決ってことでいいんですかね」
私「そうです。とにかく失踪宣告取消を進めましょう」
それでお開きになりました。
○○さんとヤマモト氏は連れ立って歩いて行きます。
「疲れたよねえ、家まで送るよー」と聞こえてきます。
後日、その日一日にあった異動届を整理していると、「職権消除(役人が住人の情報を、その責務・権限を以て削除すること)」が一件出てきました。
異動対象者の名前は「××」。
あっ、と気付きました。
内容を見ると、
「××は記憶喪失にあったため仮名で就籍・住所登録をしていたが、失踪宣告取消届により○○であることが発覚した。よって××として登録されていた住民票を登録日に遡って削除し、改めて○○として住民票を作成し直すものである」
と書かれています。
私「そっか。戸籍の方は、無事終わったんだ」
実に半年が経過していました。
しかし、○○さんが逃走する羽目になった事件とはなんだったのか。
犯人は何がしたかったのか。
無事家族には会えたのか。
それは終ぞ分かりませんし、教える義務など○○さんには無い。
もし奥さんが既に別の方と再婚していたら、この人はどうなってしまうんだろうかと、それだけが心残りです。
⑧こんな名前なんか捨ててやる！ 名の変更届
名は体を表すと言うけれど
「親から貰った名前を変えるなんて！」と目くじらを立てられたのも、今は昔。
だってその親のセンスがクソダサなんだもん！！
▲その一例
「ウチはバカでちゅよ☆」と自ら晒していくスタイルには驚愕せざるを得ません。
何も昔ながらの「五右衛門」と付けろとは言わないけどさ……
因みに伊呂波(イロハ)＝ドレミが何故なのか分からない方は「音階 呼称 日本」で検索だ。
まあどのみち馬鹿であることに変わりは無いが(毒舌)。
「その子が90歳になった時、名乗って恥ずかしくない名前をつけるのが名付け人の責務」と父から教わったワタクシ。
生まれたことへの喜びのテンションだけであり、「その子がどう育って欲しいか」を一ミリも込めていないor後付けなヘンテコネームを見るだに鼻で笑っています。
最早改名は、立派な子供の権利。
勿論、「へへっ、犯罪やったから改名して逃げ延びよっと」なんていう屑な発想を防ぐために、家庭裁判所で審査を受ける必要はあります。
改名を許される事由としては、
・著しく珍奇である場合(＝DQNネーム)
・極めて難解である場合(＝DQNネーム)
・長年通姓を用いていた場合(参照：『少年H』で有名な妹尾河童氏)
・その他本人が名前を変えたいとするやむを得ない理由 (例：名字が犯罪者を彷彿とさせて嫌がらせを受けているとか、とある理由(↓後述)とか)
職場にて多いのは、正に四番目。
▲ある日出されたもの
▲ほほう(※プライバシー保護のため仮名)
元のお名前が癸(みずと)、改名後が葵(あおい)。
淑女と言うべき品格を感じさせる言葉遣いと立ち振る舞いの方ですが、提示された身分証に「戸籍上の性別は男」と書かれていて『何……だと……！？』と驚きました。
どうやら今後性別変更届(後述)も提出する予定だそうで、要するに性同一性障害ですね。
続くその方の言葉に、私は沈黙しました。
▲茨の冠は、キリストが処刑に際し
被らされたもの。即ち受難の象徴。
つまり本来の名前である癸に、茨の冠を被せて出来上がる字が葵だと――。
どうコメントすべきか迷っていると、葵殿は微笑み、こう続けました。
性同一性障害とか、ゲイとかレズとか、そういうのが表立ったのってここ十数年でしょう？
遥か昔は違和感を持ちつつも、生まれ持った体と性に与えられる生活に順応してきたんですよ。
そういう堪え性が無い軟弱な私には、罪を自覚できるように、元の名に茨を被せたこの名前が似合ってます。
でもこの名前を素敵だと仰ったのは、貴方が初めてです。由来はどうあれ、嬉しいものですね。
堪え性とか軟弱とか関係無いです、などと通り一遍の綺麗ごとを挟むことなんかできない。
この人が、性の不和でどれだけ苦しんだかなんて、私に理解できるはずもないのだから。
癸改め葵殿は、そう言って退庁しました。
その後ろ姿は誰がどう見ても、麗しい女性でした。
⑨本当の私は違う！ 性別変更届
神様が間違えたんです
※この届出用紙のみ在庫が切れていた。そんなに大勢いるんだな……
性同一性障害とかLGBTとか、治しようの無い性質が取り沙汰されて幾星霜。
顔は化粧で、身体は手術やホルモン注射で、幾らでも「それらしく」飾ることはできる。
しかし戸籍や住民票には、はっきりと出生時の性別が載っている。
その書類上の字すらも抹殺しに掛かりたい、という程に強い違和感を抱く方がいらっしゃるのもまた現実。
そこで、
・性同一性障害だと複数人の医者から診断されていて
・二十歳以上で
・今現在未婚で
・未成年の子がおらず
・生殖腺かその機能が永久に無くて
・他の性別の性器に似た見た目を持っている
という条件を持つ人、一言で言えば「いろいろ片付けた人」が家庭裁判所に審判をお願いすることができるのが、性別の変更というもの。
さて審判が下った後はどうなるか。
・戸籍
→己一人の新しい戸籍が作られる。元の戸籍からは離脱する。
・住民票
→性別が修正され、改製がかけられる。修正前の住民票は易々と取れなくなる。
平たく言うと、性別を変えた事実が隠されます。
当たり前です。何のために変えたんだよって話ですから。
だから結婚や社会生活には書類上影響が無くなるんです。
……逆に言うと、ご両親の戸籍からは「元・息子」「元・娘」が消えます。
しかもその表記は端的且つ残酷、「性別変更の審判により新戸編製」と。
はるな愛氏は「男性と結婚するまで大西賢示でいることが親孝行」と公言していることで有名ですが、この「親の戸籍から消える」という事実を知っているのかもしれません。
ただ結婚するだけなら「婚姻届出により除籍」と書かれますが、結婚のためには今の日本の戸籍制度上性別変更をしないと届出もできませんから……。
その胸の内はどれだけ思い悩んでいることだろうかと、テレビショーやイベントで華やかに笑ってみせる氏を見る度に思います。
⑩早く日本人になりたーい！ 国籍取得届・帰化届
外国人必見
▲こちら、国籍取得届
▲こっちは帰化届
この二つはどちらも「外国人扱いの人間を日本人扱いに変える」というもの。
ただ内容は微妙に異なり、
・国籍取得：訳あって日本国籍を持てなかった成人未満の子用
・帰化：いわゆる「日本人になりたい外国人」用
文字通りの大同小異。
周囲に「日本人のはずだが、何か感覚が独特」という方がいらっしゃれば、もしかしたら帰化した『元・外国人』かもしれない。
それくらい帰化は今日においてメジャーになりつつある届出です。
問題は国籍取得で、条件が異様なのです。
①親の一方が日本人で
②日本に住所があって
③未成年であること
①は分かる。外国人同士の子なら100％外国籍なので、日本人になりたいなら帰化を届け出るだけ。
しかし②で引っかかる人が割といます。
日本に住所があるというのは、「在留カード(要するにビザ。日本にいていいという許可)を所持し、一時滞在とかではなくガッツリ住んでいて、しっかり役所に住所登録してある人」。
・役所に届けるのを忘れてた
・というか制度を知らない
・旅行で来てるだけで自国に骨を埋める気満々
・そもそも滞在許可が降りてない(短期ビザもしくは不法滞在)
などなど、そういう外国人がマジで多い。
極端な例だと「日本のパスポート取りたーい」しか考えてないヤツ。
日本に来る目的がその程度だから在留カードが貰えず(短めの旅行ビザを発行されてバイバイされる)、日本語なんか当然話せないし日本の制度に関する知識も皆無というおバカっぷり。
日本人の親御さんから何か聞いてないのか？
③に至っては最悪。
親御さんも本人もﾜｶﾘﾏｾｰﾝでほっとくと余裕で成人迎えてしまう。
「遂に成人だな！ じゃあ節目として国籍の話をしよう」とか言い始める。
おせーよ！
もう帰化しか残っとらんわ！
そう、帰化がいくらメジャーになったとはいえ、この一点を知らない人がいる。
帰化の要件は、国籍取得と比べ段違いに厳しい！
①日本に住所があって
②日本でも自国でも成人超えていて
③素行が良くて
④日本で生活していけるだけの金があり
⑤自国籍捨てる気があって(※例外有。詳細は必ず法務省に問い合わせを)
⑥日本ブッ壊し計画を企てる悪の団体に属していない
まず③で大半の外国人が脱落します。
「素行がいい」って、ただ犯罪してなければいいわけじゃありません。
近隣の皆様にご迷惑をお掛けしておらず、税金や保険料をきっちり収めていることまで入ります。
フリーライドしたりトラブルメーカーだったり、日本人に害を成すそういう存在が日本人になれるわけないだろってことですね。
え？ 制度やルールを知らない？
うるせーバカ。
分かってて異国に来てんだから役所に聞きまくってくれ。
そのためにいるんだ、役人なんざ。
え？ 日本人にもフリーライダーやトラブルメーカーがいるだろって？
だからだよ。
元々バカがいるのにこれ以上増やしてたまるか。
④もかなりキツいです。
親類縁者がいてその人達の援助が得られるとか、日本の会社で働いているとか、安定した基盤が必要になります。
これも一説には「生活保護を受ける前提で来日するのを拒否するため」とか……。
ただでさえ日本人に行き渡ってないのに、寄生目的の外人なんぞ養えるかよっつーことです。
とはいえ、清く正しく美しく生きる方々からすれば、これらの条件は呼吸と同じこと。
帰化を考える程に日本を(その目的はともかく)愛してくれるのなら、嬉しいことですね。
⑥ですか？ 自国でドンパチやってください。
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【結論】
どれも使ったことが無い貴方は、とても幸せな人。
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
撮影 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
ゼクシィ
株式会社リクルート(↑の運営母体)
リクルートホールディングス
本稿に記載した届出をする羽目になった皆様
普通ならぬ有様で亡くなられた皆様
全ての届出に携わった職員
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
さて、ちょっと知識のある方なら、「え？ これだけ？」と思ったことでしょう。
確かにマイナーな届出がまだまだあります。
以下、割と知られているものも含めた一覧です。
結構多いよ
・追完届 ・転籍届
・分籍届 ・入籍届
・認知届 ・復氏届
・婚姻取消届 ・離婚取消届
・養子縁組取消届
・養子離縁取消届
・婚姻届不受理申出
・離婚届不受理申出
・認知届不受理申出
・養子縁組届不受理申出
・養子離縁届不受理申出
・不受理申出取下届
・親権届 ・管理権届
・推定相続人廃除届
・保佐届 ・未成年者の後見届
・未成年後見人等の地位喪失届
・国籍選択届 ・国籍喪失届
・外国国籍喪失届
・離縁の際に称していた氏を称する届(戸籍法73条2の届)
・氏の変更届(戸籍法107条1項届)
・外国人との婚姻による氏の変更届(戸籍法107条2項届)
・外国人との離婚による氏の変更届(戸籍法107条3項届)
・外国人父母の氏への氏の変更届(戸籍法107条4項届)
で、どうしてこれらについては書かないのか。
簡単です。
ワタクシ、これら届出の実例に会ったことが無い。
制度として知っているだけなので、正直私が駄文を連ねるより、直接ググるか役所に聞いて貰った方が圧倒的に早く分かり易いのです。
もし届出をする羽目になった方で、それでも私に聞きたいという希有な方がいらっしゃれば、そっとご連絡をお願い致します。
The END.
