▲文芸好き御用達
一昔前にケータイ小説が爆発的ブームを巻き起こし、最近は『小説家になろう』というサービスが俄に盛り上がる等、作品をネットに投下してバズるのを待つやり方が文芸界にも舞い降りている昨今。
これを『ハードルが下がり、まだ見ぬ才能を発掘するチャンスが増えた』と見るか、『凡人が似たような下らない駄作を投下する場』と見るかはお任せします。
私は『山月記』における袁參よりも圧倒的に李徴寄りの人間なので、そういうサービスに参戦するのがどうにも苦手。
※參の表記は本来「にんべんに參」だが、入力不能な字の為、便宜上この字にしています。
だって文芸のブの字も知らない人が片手間で読んでるかもしれないじゃん。
そんなヤツの評価なんざ願い下げですが、そういう輩の評価を見て判断する者もいるでしょどうせ。
そいつら如きに、我が子にも等しい作品を差し出したくはありません。
……という人々が集っている可能性が高い、文芸版コミケ・『文学フリマ』にこの度参戦しました。
今回はその一部始終をどうぞ!
●準備
①本を作る
文芸版コミケという書き方をしたことからもお察し頂けると思いますが、要は同人誌即売会です。当然『同人誌』を作らなければ参加できません。
しかし、一体何冊持っていけばいいんだ? 何円で手売りするのか?
在庫を台車に載せてガラガラと帰るのは大変ですが、しかし少なく作ると単価が高くなる……
調べてみるか。『文学フリマ』……
▲あら
サジェストにいろんな意味で嫌な単語が出てきましたね。
これを見たワタクシ、とある思いが去来したので一旦調べるのを中断し、出版会社の選定に移りました。
▲STARBOOKSさん
大学時代、『文藝創作研究会』略して『文創研』に所属していた時には大変お世話になりました。
また世話になります〜。
▲一番安くなる組み合わせを探すのが楽しい
▲早く入稿すればするほど安くなる前割を使おう
前割を一番効果的に使うなら、
作品を完成させる(いつでも入稿できる状態にする)
→開催日から相当余裕を持った日付をお届け予定日にする
→その結果出てきた最大に安い前割を押さえる
→秒速で入稿
……とするのが確実です。
……そういや文創研もかつて文学フリマに参加していたらしいけど、私のいた時にはすっかりご無沙汰だったな……。
その当時に参加したかったわ……いや、自分一人でやりゃいいのに金が無いってことで行かなかったんだわ……バイトは面倒臭がってやらなかったから当たり前だよな……。
あれ……自分の文藝に対する情熱ってそんな程度……?
うっかり暗い気分になってしまったので、払拭すべく執筆を始めましょう。
▲一般李徴氏超絶執筆中
最終的に書き上がったのは以下の通り。
・『Info inc.』
・『金糸の振袖』
・『生活保護の実際』
他にも同時執筆していたものはあったのですが、世に出すと特定の層や人を傷つける可能性が高くなる(しかも文学としての学びや感動ではフォローしきれないレベル)と判断し荼毘に付しました。
さて、これらを一冊に……いや、待て。
マーケティングの鉄則を思い出すのだ。
経済の世界では、「一種類だけだと購買層が限られ、多種類にすると一種類の時よりも売れなくなる」という論があったと記憶しています(正式名称は忘れた。何なら心理学の話だった気もする)。
理由はシンプル。
多種類展開にすると、お客さんに脳のリソースを使うことを強制するからです。
平たく言うと「選ぶために考えると疲れ、結局買わない」のです。
一時期やたらと流行りませんでしたか? 特殊なカラー展開をしているボールペンが。
ボディだけでも何種類かあって、インクに至っては二十だか三十だかあって、しかも芯径まで違う……
今残ってるのって『ハイテックCコレト』ぐらいじゃないかしら(生き残りがいたらすまん!)。
文学フリマがどのくらいの規模かは分からないけど、大量のサークルが並んでいる時点でお客さんは疲れてるのに、更に自分の商品選びで疲れさせるとか意味分からんだろ。
しかし一つだけでは物寂しい。
ということで、二種類の冊子にします。
丁度、フィクションの『Info inc.』とノンフィクションの『金糸の振袖』『生活保護の実際』が揃ってるしね。
ソニックとマリオの操作性を鑑みて攻撃手段を二種類にしたクラッシュ・バンディクー(ガチ)の如きチョイス。
で、冊子は少なくとも表紙・裏表紙・本文で構成されているので、
▲安く抑えるために表紙・裏表紙を自作
▲ページ計算したら背表紙もちょびっと必要だった
▲本文はPDFにして……
▲データセットを作成
この時点でSTARBOOKSさんに作成依頼を掛けて、可能な限り安くなる前割を適用。
▲結果がこれ
うっかり安さと量のバランスから30冊ずつ作ってしまいました。
計60冊……だ、大丈夫か?
②ブースセッティンググッズを揃える
STARBOOKSさんのページを見ていたら、
▲『グッズ』とある
▲開くとこんな感じ。本だけじゃないんだ
そうか……ブースの装飾……
ワタクシ、全く想定しておりませんでした。しかしどんな風にセッティングすればいいんだ?
出店された先人の記録を元に揃えたのがこちら。
▲サークルシート、値札、ブックスタンド、
コインケース、レジトレイ、名刺、
アクリルスタンド2種
サークルシート:STARBOOKSさん
名刺:STARBOOKSさん
アクリルスタンド:アクリルグッズの達人さん
他:100均
この時ホントにテンションおかしくて、
▲「AI生成は使っておりません」
この表示が無いサークルはAI生成してると誤認させるようなアクリルスタンドを平然と作りました。
初参加で全サークルに喧嘩を売っていくスタイル。
さて……後は何かやることあるかな。んー……
「隙間時間も宣伝に使うのです……貴方がトイレに向かう間も、他のサークルを見物する間も……」
心の中のマーケティング担当が囁いてきました。隙間時間を宣伝に……か。
▲こういうことか?
気合ブリバリ
ロンT&パーカー
製本・グッズ・コス、締めてマジで数万円ぶっ飛びました。
せっかくやるなら徹底しないとなあ?
やがて、開会半月前には出店者証も届き、当日を待つのみとなりました。
●当日
①向かってセッティング(10:30~12:00)
▲おはようございます
応募が始まった瞬間に参戦表明したので、抽選になることなく参加決定となった本イベント――やって参りました。
文学フリマ東京39
出店者入場開始となる10:30から若干遅れた10:40の国際展示場駅はこんな感じでした。
▲明らかにここに写ってる人全員同志
皆様をライバルと見るのは適切ではないと思います。
その腕に抱えるは唯一無二の作品!
皆様をブチのめしたからと言って、自分の元に来てくれるとは限りません。
それに、このイベントに出ようと考えている時点で、書くのが好きかつ文章を褒められた経験があると思われます。
即ち、一定の筆力がある。後は世界に見つかっているかいないかだけの話。
そんなところで隣近所を威嚇しても、既に世界に見つかっている方々の影で行われるどんぐりの背比べ。
「俺ぁビッグになる人間だ! 他の奴らとは違うんだよ!」と嘯くニートと迷惑度合いは変わりません。
黙って己のやることやりましょう。
▲大人しく皆様の列に交じってビッグサイトへ
ところで、駅前に「赤ブーブー通信社同人誌即売会→」の札を持ったスタッフさんらしき人が立っていたからそのまま流れに乗って歩いてきたけど、『文学フリマ』の主催ってそんな名前だったっけ?
▲あ、そういうこと?
ビッグサイトは広大
「『文学フリマ』を西棟でやるなら、俺達は東棟でやる」っていう棲み分けのようです。ちなみに後で調べたら、やっていたのは『DOZEN ROSE FES 2024』という二次創作カップリングの祭りでした。これはアツい。
こちらも似たような時間帯に出店者が入場できるとあってか、国際展示場駅付近から続く人の波はここで綺麗に半々に分かれていきました。
▲看板を皆して撮影しつつ、
▲我々『文フリ』勢は西棟へ
▲エスカレーターを上がり
▲奥へ進んでいく
この画像の左は『文フリ』のお客様入場口です。
出店者はまっすぐに行った出店者用の入場口から入るのですが、しかし見て頂きたい。
▲もういる
皆様のお顔にモザイクを掛ける都合上分かりにくいですが、既に五十人近くのお客様が待機列にいらっしゃる。
コロナ禍前のコミケは、タッチダウンを決めようとするアメフト選手の如き猛速で電車から飛び出して改札をブチ抜く来場者が名物(危険)でした。
そのようなはしたない真似をしないだけで、立派に会場一番乗りを狙う方々が『文フリ』にもいらっしゃるようです。
……しまった。折角記録に残すなら、どのサークルをお目当てに来たのかインタビューすればよかったな……。
入場口で出店者証を提示し、赤い使い捨てリストバンドとトートバッグ、パンフレットを頂く。
▲もうめっちゃ来てんねんけど
結構余裕を持って来たつもりなのに、九割方のサークルが来て準備を進めている……!?
え、そんな時間掛かるの、設営って!?
急いで私もブースに向かいます。
▲長机半分。ここに己を主張する。
ブースセッティンググッズを取り出し……いやその前にパイプ椅子を下ろして、沢山置かれている紙類を適当に仕舞って……あぶねー、隣の人にぶつけそうになった。すみません……後は値札を取り出して……
▲セッティング完了
お隣の方々(栗林元様、青梅雨堂様)ともひとしきりご挨拶を交わす。
こんな場所で盗みを働くようなクソ野郎はいないと信じたいところですが、性悪説を採っているワタクシとしては警戒しておくに越したことはありません。
お互いに離席する時に見守りができるよう、礼節を徹底します。
ところでよくよく聞いてみると、
・栗林元様
これまで複数回『文フリ』に参加しているベテラン。作品を電子化してkindleで購買できるようにしてあり、その関係で何と新聞に掲載されたことがある。
・青梅雨堂様
『文フリ』参戦は初。これまで専らコミケなど大手同人誌即売会に参戦し、二次創作・オリジナル共に売り上げる経験者のチーム。
でした。両脇とも歴戦の強者。
出店申し込み時のジャンル設定でブースの並びが決まっているとはいえ、何であなた方は島中にされとるんだ。
強者の自然体を目の当たりにしてもうフラフラし始めたので、試し読みブースに作品を置きに行くがてら会場を一周することに。
もうね、黙って画像を貼っとくので見て。
恐らく企業ブースが固まっていると思われるエリアの人口密度が尋常じゃないし、テレビクルーは来てるし、互いにガムテや道具を貸し合ったり名刺代わりに新刊を交換したり……とんでもねえ熱量です。
一周するだけで十分以上掛かる広さ。トイレも長蛇の列ですし、これ、お客さんが入り始めたらもっと歩きにくくなるのでは……。
気づけば開場十分前。
試し読みコーナーに早く置きましょう。
▲大体の枠だけ決められているので、
そこに好きなように置くスタイル
▲綺麗に並べられているが、
終わったらどうなっていることやら
隣の作品を邪魔しないよう互いに肩を狭めて並んでいる試し読みコーナーは、私が置こうとした時にはギチギチに詰まっていて平置きはほぼ不可能でした。
仕方ないので、壁に立てかけるように二冊置いてブースに戻ります。
皆様、『文学フリマ』東京39にご出店頂きありがとうございます!
開場五分前。主催からアナウンスが流れ、ざわついていた皆様が一斉に拍手を送る。
『文学フリマ』の発起人・大塚英志さんは、かつてこのようなコメントを残しました。『今の状態では東京ビッグサイトを満杯にできない。「文学フリマ」にそんな力は無い』と。私達はいつかビッグサイトで開催したいと願ってきました。そして今回! 初めて、遂に、東京の会場をビッグサイトにできました! 皆様のご協力、熱意あっての実現です!
(何だと!?)
拍手が割れ響く中、ワタクシ驚嘆しておりました。
東京での大規模イベントは必ず東京ビッグサイトでやってるもんだと勝手に考えていたのです。
(初ビッグサイトに、初参加したのか私……)
その後もアナウンスは一通り感謝や注意事項を述べ、
間もなく始まります。3、2、1……12:00開場~! 『文学フリマ』東京39の開催です!
▲会場中に拍手がわんわんと反響する
こうして『文学フリマ』はぬるっと始まりました。
②開場中の交々(12:00~17:00)
とはいえ、始まった瞬間に駆け込んでくるお客様がいるわけでもなく、出店者サイドも「まあ、置いとくんで来たければ来れば?」くらいのテンションでぽやんと座っています。
何なら開場と同時にパソコン開いて作業し出したブースもあり、呼び込みを積極的にするというものではなさそうです。
そら四桁ものブースがひしめく中でギャアギャア声出ししてもうるせえし、お客様もそろんと来てさらっと眺めて全体から一冊二冊程度買っていくものと考えたら買われない確率の方が高いわけで、喉痛むだけの呼び込みなんて非効率以外の何物でもないですしね。
というわけでワタクシも、
どうぞー。薄いので嵩張らないですよー
と的を外した声掛けをする程度に留めたのでした。
さて、無名の初参加ソロなんざ暇以外の何物でもないですし、折角なら皆様の作品やブースを見たい。
ということで会場を、例の宣伝パーカー着用状態で彷徨くことに。
▲ワーオ
開場三十分、試し読みエリアはお客様で大盛況。
取り敢えず行ってみて隙間に身体を捻じ込み、たまたま手に取れた作品を数秒開いて眺めるといった様相。
綺麗な平積みも既に意味を成さなくなっています。
目当てのサークルが無い方々との交流は、ここでたまたま手に取ってもらい気に入られたかどうかのただ一点。
とんでもねえ確率だな……これで気に入ってくれた方は多分運命の人なので、崇め奉ることを推奨します。
▲こちらお客様入り口側。言わずもがな盛況。
▲私のいるブースの向かい側。徐々に人が増えてきた。
お客様の入り口から離れている都合上、一見こちらのブースが静かに見えますが、そのさざ波がじわじわとこちらにも流れてきています。
ちなみに試し読みエリアとお客様の入り口は真反対にあり、恐らくは、
初心者:入る→目の前のブース一周→こちらのブース一周
分かってる人:入る→試し読みエリア一周→ピンときたところに直行
固定ファン:入る→目的のサークルにまっしぐら→折角なので一周したり試し読みしたり
という三種類の流れがあるものと思われます。
お陰で一部大渋滞してるよ!
一方通行なんて制限は勿論ありません。皆様縦横無尽に歩いています。
何か購入したいのですがちょっとそういう場合ではなさそうなので、超長蛇の列となっていたお手洗いを済ませ、一旦ブースに帰ってくることにしました。
こちら、頂いて宜しいかしら
勿論です、どうぞ!
名刺を持って行ってくれる方が何人か現れました。ありがとうございます。
気になった作品のメモにお使い下さい~
▲裏面と思われたメモが「表」だ
と聞いたらそら気になるよね
STARBOOKSさん謹製のネタ名刺、無料配布なので手に取りやすいようです。
更に良いことは続く。
すみません、こちらを一冊お願いします
『文少』売れた!(大感謝)
試し読みされたのか、それとも本当にたまたま引力を感じてくれたのか分かりません。
理由を聞こうとも思いましたが、うざがられる気がしたので思いとどまることに。
え、生活保護の話だって
その場で開いて、興味深そうに頷いていました。
なお、このお客様は立ち去る際に、
『AI生成は使っておりません』ww確かにwww最近よく聞きますよねwwww
全サークルに喧嘩を売るアクリルスタンドを理解して下さいました。
もう正直売れたこととアクスタが受けたことと名刺が何枚か貰われた事実だけで大満足、帰ってもいいくらいの高揚した精神状態ですが、まだ時間はあります。
ぼんやり人々を眺めていると、
名刺、私も頂いて良いですか? 後、新刊交換しましょう!
強者その①・青梅雨堂様からお声掛け頂きました。
メモ名刺と『文少』『Info inc.』を渡し、青梅雨堂様から新刊を貰……
▲何かキラッキラしとる!
青梅雨堂様の作品は他にも、箔押しされていたりプロにイラストを依頼したりと、見た目から既に高クオリティで目を引く仕様!
STARBOOKSさん使ってるんですね! あそこも箔押し使えたはずですよ。ただ、単価は高くなりますよね~
青梅雨堂様曰く、
・フリーフォントの中にも商業で使われているものがあるため、調査して取り込むとよりプロっぽく見せられる
・コミケなどの相場を踏まえると、300円(筆者作品の販売価格)は安いと思う
・やはりディスプレイは重要
・とにかく目を留めさせた方がいい、一瞬でも意識を向けさせる母数が多ければ多い程買う人が現れやすくなる
いずれ私達もポスタースタンドを導入しようと思うんです。後ろに立てるだけでも相当目立ちますからね
コミケ参戦者のコメント、大変参考になります。急いでメモを取りました。
再度「ブースの作り方」に重点を置いて会場を一周し戻ってきたところで、目の前にお客様が一人いらっしゃいました。
どうぞー、ご覧になってくだ……力氏!?
用事の前に捻じ込みましたw
ま さ か の 来 訪(過去記事①・過去記事②・初登場記事)
参戦することは知己の皆様に伝えていたのですが、よりにもよって日曜開催ということもあって行かれない人が多く、「後でルポ下さいw」と冗談交じりに言われていました。
てっきり来ないもんだと思ってたよ
何を言います、姐さん……
力氏、入り口で配布されていた不織布トートバッグを掲げる。
斜線堂有紀先生がいるんなら来るしかないでしょうが!
私のためじゃねえのかよ! 期待しちゃったじゃないか
実はミステリカーニバルの後、力氏が『文学フリマ』をちまちま調べておりました。
すると、作家・斜線堂有紀氏がTwitterでこう放ちました。
これから文学フリマ全回参加します
力氏、発狂。
用事があろうが知ったことか、俺は斜線堂有紀の作品を獲りに行くぞ――!
で、今ここにいます
満足したか?
他にも気になる先生が参加してるので見てこようと思いますが、その前に姐さんの作品二つ、どっちも下さい
はいはい
購入したかと思えば、力氏はその場で開いて眺め始めました。
一人でもこうしてると、客は近づきやすいですからね
サクラやめろ
友人ブーストはキャンセルだ。
力氏はその後も何度か見回っては戻り、参加者の目線から意見を述べてくれました。
・フリーペーパーなど、無料配布の物は手に取りやすい
・但し「フリー」であることが遠目に分からないと取れない
・かといってブースの売り子に声を掛けるのは相当ハードルが高い
・目立つブースほど期待度が高まるからか、客は向かいやすい
こんなところですかね
ご協力感謝
彼女は意気揚々と帰っていきました。
午後四時近くなっても、客足は途絶えません。
しかし、見える景色に変化が出てきました。
……一部サークルがいない……
パイプ椅子が折り畳まれて机の上に置かれているのです。
四時半頃になると、そういうサークルが目に見えて増え始める。
(売り切ったのかな?)
そうかと思えば、私の目の前のサークルは、全部売り切った様子が無いにも関わらず片付け始め、さっさと荷造りして立ち去っていきました。
……そう言えば、会場を一周している時に、「流石、規模が地方と違いますね」と売り子同士が話しているのが聞こえたな……。
もしかすると地方から参戦した人の中には、日帰りの方もいるのかもしれません。
だって日曜開催だしな。何で土曜じゃなくて日曜なんだ文フリよ。
やがて、会場にアナウンスが流れ始めました。
終了時間まで、後三十分となりました。試し読みコーナーに既刊を置いているサークルは、五時までに回収してください。新刊は、そのまま置いてある場合は実行委員会に回収され、日本大学芸術学部文芸学科に寄贈されます
開始時同様にざわつく皆様。
ギリギリまで置いておき、お客様に読んで欲しい――。
しかし、回収に行かないと片付けられてしまう――。
既刊をそのまま放置したらどうなるのか確認しそびれましたが、皆様の反応を見るに恐らくは処分されてしまうものと思われます。
(私は初参加・全部新刊だから大丈夫だなー)
どよめく会場を眺めながら、黙って座っておりました。
……強者その②・栗林元様も、特に動く様子がありません。その作品数は尋常でなく(覚えている限り五つは並んでいた)、一つ一つも読み応えのある分厚さだというのに。
(まさか全部新刊か!?)
驚愕。一体どれほどの時間を掛けて仕上げたのか、もしくはどんな速筆の持ち主なのでしょうか。
ホントに何で貴方は島中にされとるんだ?
試し読みコーナーに置いてなかっただけの可能性もありますが、いずれにせよこの作品数と量には情熱を感じざるを得ませんでした。
③閉場後(17:00~)
ベテランの凄みをラスト三十分で浴びたところで、閉場時間。
皆様、大変お疲れ様でした
終了のアナウンス。
本日の来場者数は10941人、出店者4026人、全体で今回の『文学フリマ』に参加した方は、合計14967人でした。大変多くの方にご参加頂きました。本当にありがとうございます!
▲運営へ、参加者へ、互いに拍手を送り合う
これより撤収作業を行います。皆様、ご自身のブースを片付け終わりましたら、椅子と机は畳んで所定の位置へ運んで下さい。『文学フリマ』は後片付けも出店者の皆様に毎度ご協力頂いております
『文学フリマ』は、実は会場設営にもボランティアとして出店者が参加することができます。
設営から撤収まで、全員で『文学フリマ』を作る。
それがこのイベントの理念なのです。漫画やアニメと比べるとどうしても地味に見えてしまう「文学」を盛り上げるために。
アナウンスが終わると同時に、様々な声や物音が会場に満ち満ちていきます。
私もあたふたと片付けをしていると、栗林様より一冊手渡されました。
▲この重厚感を少しでも貴方に食らわせたい
「荷物減らしたいから」などと仰っていましたが、この熱の塊をタダで貰うは恥!
問答無用で私の薄い二作を押しつけました。どう見てもこの量に釣り合いませんが、何も渡さない選択肢は無かった。
▲そして起きる片付けの渋滞
▲積まれた椅子や机をガンガン積んで運び出す
絶対誰か手挟んで怪我してると思います。
さて、私はカートに遮二無二突っ込んで持ち帰るのですが、それは設営グッズも少なく、作品も少なく薄いからこそできる芸当。
物凄い冊数を持って来た人はどうするんだろうか。
▲ん? 何か書いてるぞ
▲段ボールを置いていく人と、取っていく人と
そう言えば、開場前に「宅配が届いていないサークルがいます。今一度受け取った宅配が本当にご自身のものか確認して下さい」と空港におけるバゲージエラーに対するようなアナウンスが流れていました。
会場に当日送って、終わったら会場から発送することもできるのか。
いつかそのやり方を取らざるを得ないような、人気ブースになりたいものだ……!
▲夢の跡
試し読みエリアは案の定しっちゃかめっちゃかになってました。
何となく嫌な予感がしたので一応確認したら、私の二作もしっちゃかめっちゃかの中にいました。
盗まれていないならいいや。
どの作品にも傷や折れはありません。皆丁寧に扱ってくれたようです。戻し方はぐちゃぐちゃですが。
やがて、自分の周辺の片付けが終わると、ポロポロと会場から出て行く人も増え始めました。人ばかりいても邪魔になりますからね。
▲数百人ずつ出て行くものだから
▲やはりエスカレーターも大渋滞であった
▲外はもう真っ暗
これまでの喧噪は何処へやら、冷気と静寂が道路の目地にまで満ちていました。
●感想と反省点
①感想
先にも書いた通り、大半が無名で唯一無二の作品を持っているからこそ、ライバルもクソもありません。
だからなのかブース同士いがみ合うようなことは無く、掲示を落としたことに気づかない売り子に隣や向かいの売り子が声を掛ける等の小さな交流がそこかしこで起きていました。
一人でも全く寂しいことはありません。
それに、お客様にも売り子にもマナーの悪い輩は見受けられませんでした。出店者に送られる通知にトラブルの事例(※)が載っていたため過去にそういう愚か者がいたようですが、そういう時に速やかに通報できるよう実行委員会本部の連絡先があるので安心です。
※粘着して延々と講釈を垂れ、他のお客様の邪魔をしたりブースの営業妨害をする等
まあ……夢小説やカップリング系の二次創作に関わるブースが隣り合ったら地獄を見そうな気はしますが……。
それと個人的に「これ、アリなの?」と感嘆したのは、写真・絵葉書・アクセサリーも売っているブース。
メインの出品が「文学」であればOKなので、恐らくは文学作品と並列で関連のアイテムを売っていたと思われます。
詳しくお話を伺いたかったのですが、自身も売り子である以上長く離れるわけにいかなかったので、そこがソロ参加の唯一の難点ですね。
誰だ今「どうせ売れねえからいてもいなくても変わんねえ」っつったヤツ
ちょうど「売れる」「売れない」の話が出てきたので、先に掲示したこの画像をもう一度。これ見て私は何を思ったか。
ごめんね、これ検索した人全員に言わせて下さい。
清水の所感 ※超長いので注意(クリックで展開)
②反省点
改めてブースを客観的に眺めると、問題が浮き彫りになります。
・そもそもブースの印象が薄い、平面的
・向かい側や両脇に立て看など目立つ要素があると、どうしても流し見される
圧倒的な物量と立て掲示で目立たせる両脇と異なり、アイテム数が少なく掲示も小さいため目につきにくかったと思われます。
少しでも目立たせようと気合いを入れてサークルシートをSTARBOOKSさんに作って貰いましたが、お客様の目線は机の上に行くので、シートはお情け程度に色を添えているだけとなってしまいました。
シートは狙ってきてくれるお客様がつき始めた時にこそ活きてくるので、作品がすぐに目につくように、かつブースそのものが遠目に見て認識されるように、上の目立たせ度を強める必要があります。
・値札が木、スタンドがアクリル、小銭入れがプラとちぐはぐ
これは微妙なところですが、何となく気になったもの。
小物も含めてブースの素材、もっと言えば世界観を統一できると、存在感のあるブースになるのではないかと。
・名刺に「無料配布」であることのポップが無く、持っていって良いのか分からない
これは力氏からも指摘があった事項。
売り子がいないと当然として、いても声を掛けにくい(掛けたが最後何か買わなきゃいけないとプレッシャーを感じてしまうお客様もいる)ものなので、「値札が無いから大丈夫だろう」ではなくはっきりと「これは無料です」「ご自由にお持ち下さい」と表示するのが圧倒的親切。
・中身がすぐに分からないと手に取って貰いづらい
『文少』を購入されたお客様の反応から見るに、デジタルカタログ(生活保護の話が載っている、と記載した)を見ておらず、試し読みも最初の方(=『金糸の振り袖』)だけしていた可能性があります。
実際、試し読みコーナーに置く際に貼ったラベルには、生活保護の「せ」の字も書いていませんでした。
たまたまこのお客様は興味を持ってくれた様子だったからいいものの、「生活保護なんざ甘え、どんな事情があろうが受給している奴は差別されて当然」とか考えている人がこれを手に取っていたらブチ切れて的外れな講釈を垂れてくることでしょう。
何が書かれているのかを明示することで、本当にそれに興味を持つ人が来てくれる確率が高まります。
・暇
シンプルにお客様が来ない時間帯が勿体無い。かと言って呼び込もうとがなるのはうるさいし両脇にも迷惑です。
それに如何にも「来てくれ」感を出してしまっているようで、近づきにくさがあったのではないかと思われます。
よって、接客態度として問題の無い範疇で、それこそ次の作品を書くなど時間を有効的に使えると更に充実するでしょう。
以上、『文学フリマ東京39』の参戦ルポでした。
実はコソコソと文芸作品を作っているというそこの貴方! 次の『文学フリマ』に出てみないか? というか出て(期待)
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【結論】
売ろうと思うな。参加できることをまず喜ぼう。
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【おまけ:総括短歌】
奇跡かな その作品と会えたのは またこの場所で見えるように
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
撮影 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
※青梅雨堂様の記事中アイコンは、名称から抱いたイメージを元に勝手に紫陽花とさせて頂きました。
『文少』をご購入頂いた方
名刺をお持ちになった方々
力氏
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
栗林様が『ブックガイド』として筆者の作品を紹介する記事を執筆して下さいました。
ありがとうございます! その旨をご報告頂いた時はビビり散らかして暫くページ開けませんでした(汗)
青梅雨堂様がTwitter(自称:X)に、入手した本のツイートを投稿されていました。
う、映っとる!(後列・左側二冊) 他の素晴らしい作品群と共に……ありがとうございます!
▲今一生懸命読んでいます……
感想をきちんと書けるようにしっかり読み込みますね!
(筆者は何周もしないと作品理解できない人です)
END.