▲どういうジャンルだコレ
親が所持する本の数々が、適度に昔かつ絶妙に興味を惹かれない。
ありませんか? そういうのがご実家に。
●父の趣味が分からない
父は読書家。
当時図書館で所蔵されていた本を全部読み切り調子こいて「〇〇っていう作品読んでないとか学が無いよね〜w」などと吹聴していた中二病全盛クソガキな時分の私を、
「幸田露伴の『運命』は読んだのか?」
という一言で黙らせた偉大な人です。
(分からない方向けに簡単にお伝えすると、歴史的仮名遣い+俳句や短歌に使うような独特の表現だけで書いてある小説(文語体小説)で、明治の文豪・幸田露伴の代表作。一般的読書家にとってもかなりキツく、ライトノベルしか読んだことのない人は1文字目で嫌になるレベル。当時の私は文語体小説を一冊も知らなかった)
そんな偉大なる我が父の所有する本がこちら。
▲デン
▲デデン
▲デデドン
何一つ有名どころが無い。
否、私のような浅はかな輩にはそう映るのでしょう。
もしかすると画面の向こう側で「最高DA!!」と大興奮している方がいるかもしれません。
浅学者にとってあまりにもニッチな彼らを、掃除ついでに見ていきましょう。
①火山の歌(著:丸山健二)
全く想像できません。
しかもこれ、読むに当たり心理的ハードルを異様に上げに来た文言が。
▲「純文学」
はあぁいもうキツぅうい(確定)
純文学。
即ち文章表現そのものや描き出す世界観に芸術性を持たせることに命を賭けている文学。
主体が作家本人にあり、読者はその芸術を鑑賞する心構えで向かう必要があります。
対を成すのは所謂大衆文学、賞で言えば直木賞作品であり、こちらは読者の取っつきやすさ・娯楽性が主体となります。
凄く雑に言えば純文学とは、付いてこれる奴しか相手にしない文学!
俺の描く芸術を感じろというスタンスなのでストーリー性が皆無なものも多く、読了後に要約しろと言われるとかなりの難度になることも。
私にとっては文語体小説の次に地獄。
どれどれ、始まりは……
▲わああああ二段組だああああ
これは歯応えがありそうですよ奥さん!
行ってみよう!
▲……。
▲おぅ……!
主人公・ヨシが唯一のネームドキャラクター(※固有の名前が付いている登場人物)。
それだけで既に私にとっては異常事態です。
他の人物は娘だの百姓だのボーイだのとジャンルだけがタグ付けされている、モブもモブ、NPCというか最早風景の一部とまで言って良いレベルにしか書かれていません。
だからこそ読む時は慎重に、注意深くなければなりません。
ここで書かれた「娘」は前に出てきた「娘」か?
彼らの発言はヨシへの関わりだが、それがどう影響するのか?
モブの動きは本当にこれで終わりか?
ここまで読書に頭を使ったりメモを必要としたりなんてことは、過去に一度たりともありません。
そこで「これは純文学だ」と、初めて感じ入ったのです。
先も書いた通り、純文学とは文章表現そのものや描き出す世界観の芸術性が重要で、読者は鑑賞する心構えで本を開くべきなのです。
ヨシという一人のバイク乗り、その風景、背後に描かれた人々の数々、紫の山……。
まるで一枚の絵画のようではありませんか。
ヨシ一人を明確にするために、他を「ヨシを取り巻く環境」として徹底的に落とし込んだのです。
それが分かった時の読後感たるや、清々しいの一言では表しきれない程の感動でした。
しかも明確に泣くような「絵に描いたような」感動ではなく、心の臓に染みいる情動です。
これは良い作品だ。しかも書き下ろしとは、恐るべし。
それを考えながらの読了なので、大変に疲れましたが。
②限りなく透明に近いブルー(著:村上龍)
あれ? 何だ、いるじゃん。有名どころ。
でも純文学。クソぉ(疲弊)
原題がド下ネタ全開(※リンク先に記載あり。注意)なことで、無駄に本の存在だけ知っている人も多いのではないでしょうか。
歴代芥川賞受賞作中で最高売上記録を未だ破られていない不朽の名作、果たしてどんなものなのか。
▲……。
▲一回読むのやめていいですか?
何これ小説版『Grand Theft Auto』?
いろんなエロといろんなヴァイオレンスといろんなヤクを予算一万円くらいで適当にピックアップして闇鍋パーティを開いたような内容。
FANZAでエロビデオ検索して視聴する方がまだ健全とすら思えます。
これ1976年の作品ですよ、信じられます?
南北ベトナム統一の一週間後に出てるんですよコレ。
時代が大らかだったのか?
▲理解すべく取り敢えず読了
分かったのは、100倍濃縮したコーラみたいな、採ると頭痛がもれなく起きそうな強すぎる内容を扱っているはずなのに、終わってみると何処にもその濃さが纏わり付いていないという喉越しの軽さ。
闇鍋の片付けが1秒で終わった上に参加者全員の記憶は「楽しく鍋パしました。チャンチャン♪」になっているという、読後感・余韻消失のスピーディーさに驚きました。
登場人物が軒並みDV屑とかヤク中とか社会の底辺だらけだってのに。
なるほど、この作品のキモは「何も無い」ことなんだな……。
何も変わらないし、何も進展しないし、何も残らない。
得るものも満足感も喜怒哀楽の揺さぶりも、無い。
……悲しいな、それ。
③雨が好き(著:高橋洋子)
あ、純文学しか無いな?
よく分かった、もう分かったよ親父。
三冊も純文学が続いたら貴方の趣味が純文学だってのは嫌でも刻まれるよ。
ていうか村上春樹の『1Q84』買ってたもんな、その時に気付くべきだったわ。
しかしこの本はタイトルが平易で、まだ精神は平穏です。
さあ開けてみよう。
▲……。
▲非常に読みやすい!
これはいいですね!
そもそも短編小説なので、軽やかに読み通すことができます。
春先の一陣の風のようにスッと流れていく、主人公のひとときの恋。
出会いがふわついたものなら、その別れもふわついたもの。
どの登場人物のこともはっきりとは分からず、どういう過去だとか生活しているかとかも一切無いのですが、よくよく考えれば現実もそういうもの。
自分の両親ですら、過去に何があってどう生きてきたかなんて分からないのです。
寧ろいろんなキャラクターの過去や人となりがよく記述されている冒険小説の方が不自然で鼻につくくらい。
ちなみに誤解を生みそうな表現や一部の現代っ子には分からない表現もチラホラ。
特に、
・長雨で家に閉じこもっている状態を「自閉症になってしまう」呼ばわり
※自閉症は環境ではなく遺伝子の問題であり、「自閉」の字面から鬱病を想起する者がいるが別物である。
・駅に水飲み場があるという描写
※地方だと現在も存在するが、東京都には水飲み場のある駅舎は無い。
この辺りは発刊された時代(※1981年)を考慮して読む必要があります。
さて、作中に出てきたお芝居の授業ですが、これがやたらとリアル。
断片的に語られる練習内容は奇異で、「変な練習風景を思いついた!」というよりは本当にやっていてもおかしくなさそうな絶妙な変さを呈しています。
何でかなーと作者さんを調べてみると、
▲本業だった(当該記事)
なるほど、納得です。
それと同時に、作家・女優・監督業というマルチな才能を持つこの方に対して、何故か羨望も嫉妬も起きないのでした。
文筆業も、一個出して終了ではない辺りに、ただの話題作りに終わらない才覚が見て取れます。
④日本貿易論(著:早川広中)
経済本!?
確かに父の専攻は経済だったのですが、これが発行されたのは1993年、父が大学を卒業して随分経ってからです。
アレか? 株投資に向けた勉強か?
大人になってからこんな社会派なもの・教養になり得るものを手に取ることが殆ど無い私からすれば、それだけで十二分に素晴らしいというか偉いのですが、果たして内容はどんなものか。
▲……。
▲こりゃ駄目だー!
公務員試験でマクロ経済学とミクロ経済学をまるまる捨てた人間(※私)には何言ってるか全然分かんねぇ!
貿易黒字が多すぎると貿易相手から反感を買うというただ一点以外、本当に何を言いたいのか理解不能!
はい! しまっちゃおうねー!(諦念)
⑤フランス革命 歴史的風土(著:田村秀夫)
うわああい歴史だああー(棒)
アハハハハハハ興味ねえ(壊)
フランス革命なんて「侍女と従者のフリで脱走を図ったけど、従者役のルイ16世が普段通り偉そうにしてしまったので一発でバレた」という逸話しか知らないよお。
タイトルから想像するにフランスの歴史+その背景及び思想って感じなんでしょうけど、どうしよう。
何 に も そ そ ら れ な い
いざ、読書開始。
▲……。
▲とってもタメになるぞ
まず前提として近代史の知識が必須。
私は世界史ではなく日本史選択だったので、倫理学で語られた若干の歴史の知識からどうにか補填しながら読み進めていきましたが……
内容は、フランスで何度か起きている革命について、そこに至るまでの流れやそれに結果的に与した思想家、思想家そのものがその思想に至った経緯を記してあるというもの。
思想家同士や革命関係者(殺害された敵サイドも含む)がぶつ切りではなく、丁度時期や出会いが重なるように紹介されているので、「は? 今誰の話?」とならないのが凄い。
その流れは以下の通り。
→ヴォルテール(※フランソワ=マリー・アルエ)
→ロラン夫人
錚々たるメンツ
加えて恙なく、繰り返し書かれている民衆の恐ろしさ。
当時の合言葉が「市庁舎へ!」であり、何かっつーとすぐ市庁舎(=役人や公的機関の職員がいるところ)に群れを成して殴り込んでくるエネルギッシュさ、それだけ鬱憤が溜まっていた背景が、あくまでも事実だけに基づき淡々と執筆されています。
そして最も面白いのが、それをツアーの如く巡っていくという体で書かれているというところ。
▲端書きからしてこんなこと言ってるし
歴女の皆さんからしたら垂涎でしょう、こんな観光ガイド形式の文章は。
で、これ読み終わると分かるんですが、
▲最初の章(ガイドスタート)と
▲最後の章開始時点(ガイド終盤)が同じ場所
即ち歴史の話をしながらフランスを一周するんです。
フィールドワークの見本というか丸パクりしても様になりそうな本書、いや、読んで良かった。
一体何処が出したのかと本を閉じてみると、
▲大学の書籍だった
▲筆者の田村秀夫氏は中央大の教授
な る ほ ど
中央大学で、この方が担当しているのであろう歴史の講義の参考書だなコレ。
▲当時の値段
1976年の出版なので、2020年現在に換算すると2756円+税となります(計算式)。
当時の学生達が他にも買わされたであろう参考書・教科書を考えると、貧乏な方にはなかなかの痛手だったでしょうね……。
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【結論】
人の持ってる本で同じことできるし、というか本に限らず所持物でいいな?
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【おまけ:総括短歌】
絶対に交わらぬはずの趣味嗜好 手伸ばし世界を広げてみぬか
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
撮影 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
幸田露伴氏
丸山健二氏
村上龍氏
高橋洋子氏
早川広中氏
田村秀夫氏
株式会社新潮社
株式会社講談社
株式会社白桃書房
中央大学出版部
実の親
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
▲もう一個あった有名どころだが、
中学時代に読了済みのため今回は見送り。
ビリー・ミリガン氏の生涯は時代と相俟って
あまりにも不幸なので、一読をお勧めする
The END.