▲ちょっと待ってコレ
2022年10月に刊行された『無職の学校』。
皆様はもうお読みになりましたか?
本記事が投下される頃には、既に第二巻が発刊されています。
舞台は職業訓練校。
タイトルの通り、現在無職の方(※フリーター、失職者、ニート)が手に職つけるために通う場所。
この第一話で主人公が驚いていますが、何と入試があるんですね。
で、この入試ですが……かなり頭使うぞ!?
●「国の金を踏み台に」
そりゃそうです。
この学校は税金で運営されている。
何なら通学中は失業手当が給付される、悪く言えば学校に行くだけで金を貰えるわけです。
小中高大ですら無かったことですよ。
そんな甘い蜜に寄ってくる輩の全員が善人とは限らないじゃん。
無職であることの大義名分(『資格勉強中』等)を得るため・やる気あるっぽい雰囲気だけ出してタダで金を得るためといった穀潰しをブチのめす目的であることは明白です。
で、主人公はいざ試験に臨んだところ「問題集の五倍難しい」「無職を脅かして何が楽しい」と独白する羽目に。
その時出ていた問題が何だったのか・主人公は受かったのかは漫画を読んで頂くとして、このシーンを見ていた時の私を出しますね。
▲「え、解けないの……?」
ドン引いてます。
こんな大人になったら駄目ですよ、皆様。
人を見下す奴は、人から見下される立場に絶対なりますからね。
私の性根を正直に皆様に晒した所で、批判前提で更に言わせて頂きますが……マジでビビるくらい簡単なんですよ!
分数とかルートの足し算とか、義務教育をちゃんと受けた方なら寧ろどうやって失点するのか教えて欲しいレベルで、しかも記述ではなく択一式。
こんなもんわざとやんない限り間違えないですよ。
過去の描写によると主人公は高卒ですが、お前さん、高卒でそれが分からないのはヤバイよ……?
だがしかし、だ。
かの三島由紀夫は東大を卒業し東大を批判した。
こんな性根の私もやるべきであろう、彼が対峙した試験を。
▲だから買いました
問題集と解答のセットです(画像は問題集)。
お値段、1,800円。
但し送料等が1,000円なので、〆て2,800円。
無収入者には結構キツい出費だろうなあと一瞬思いましたが、主人公はハローワークで問題集を貰ったと発言しているので、きっと大丈夫なのでしょう。
私くらいか、わざわざ取り寄せてるの。
●「ちゃんと解けるのか……?」
ではやっていきましょう。
『無職の学校』で読み取る限り、出題範囲は義務教育の範疇ってとこでしょう。
高校数学とか出てきても覚えてないよ。
余談ですが、動く点Pをとっとと仕留めるべきだと私は思います。
▲早速開い……
何、この厚さ。
これ、まずいかもしんないな。
国語だけで片面印刷16頁あるんですが?
ざっと見てみると、1頁辺り平均20問程度。
20問×16頁=320問
入試時間は国数合わせて60分だそうで、場所により2、30分のところもあるとか。
国数合わせて60分
=30分で一教科320問
=1分で11問は解かないと間に合わない
=1問に掛けられる時間:僅か5秒
物凄くハイペースです。
公務員試験の筆記試験並の時間配分になりそう。
(※筆者注:この問題集は総復習が目的であるため出題内容が多岐に渡っており、必ずしも本番でこんな大量の問題が出るとは限らないが、今回はこれがそのまま出る体で話を進める)
え? 公務員試験の筆記試験より余程簡単だろうって?
それは私も思いましたが、職業訓練校に来る人がどういう人か考えてみてください。
中卒や高卒・名ばかり大学卒等、低学歴の人。
就職できずアルバイトで繋いできた人。
ずっと勤めていたのにクビになった人。
引き籠もり・ニート生活が長すぎて頭を働かせてこられなかった人。
そういう「長らく普通の学業から離れてきた人」に、いきなりコレ渡して30分で解けはヤバい。
まず拒否反応が起きて手に付かないはずです。
だって私がもう嫌だもん。
▲取り敢えずタイマーを
30分にセットしてスタート
流石に解いている最中は写真が撮れません。
シャーペンをカリカリ言わせながらガンガン解いていきます。
~30MINUTES LATER~
(※科目詳細)
総得点:330/330(満点)
さっき算出した大体の問題数より10個多かった上に故事成語以外全部記述式という予想外の事態に、時間が一分も残らない瀬戸際のバトルとなりましたが、満点という晴れがましい結果となりました。
しかしそれは、私の頭が特別に良いからではありません。
私の学問的な意味での属性を顧みると、
・一浪(人より一年分一般的な学業に触れていた時間が長い)
・日本大学法学部卒(私大・四年制・文系)
・現役公務員(法や制度の理解・公文書に使う表現への知識が必須)
・Under 30(特に準備しなくても脳が働く若者の部類)
という、文系特化かつ一般常識と教養・語句を知っている立場。
つまり国語系はできて当たり前でなければならない状況にいるのです。
そのため、この後数学を同じく30分でやったところ、こうなりました。
(※科目詳細)
総得点:93/103(誤答2、タイムアウト8)
痛恨のタイムアウト。
最初に問題全部を確認し、考える前に身体が反射的に書いてくれるレベルと判断したものから解き始めたのですが、図形でウッとなって資料問題へカムバック。
しかし資料を割と読み込む必要があると感じたため後回しにして、飛ばした通過算・流水算に行きました。
これがいけなかった。
通過算も流水算も、解き方のテンプレをすぐ書き出せなければ得点源たり得ません。
寧ろ公務員試験にあった資料問題の解法を覚えている身としては、通過算・流水算・図形を捨てるべきでした。
資料問題が全て取れていれば、プラス3点で96点(=93%正解)になったはずです。
あ~あ。
しかもこれは国語を30分やった後休憩してから挑んだ結果です。
本番は国数ぶっ続けであることを鑑みると、集中力が無くなり更に失点・タイムアウトが増えたはず……。
●「そんなアホづらで笑えんすかねー!?」
いやいや待て。
自分一人の結果だけを物差しに職業訓練校の入試を測るべきではないでしょう。
これは他の人にも、特に私と学問的属性の違う人間にもやらせてみなければ。
ということで属性が被らないよう細心の注意を払った5人に、同じく一教科30分でやらせてみました。
気になるところをクリックしてご覧下さい。
※なお浪人していない、大学にストレート入学したという意味合いの「現役」について、現役正社員といった表記と混同し分かりにくいため、本記事でのみ「未浪」という書き方をします。
一人目:無職を見下す者
二人目:低学歴からの返り咲き
三人目:在学中
四人目:悠々自適な高齢者
五人目:後日判明したある属性
五人だけでやっても点数が違うのは勿論のこと、職業訓練校に対する考え方やイメージに大きな差があるのは興味深いですね。
国数合計433問を60分で解くというのは量と時間があまりにもシビア。
これは紛れもなく難度の高い試験です。
少なくともドラクエでいうところの『職業:遊び人』はまともに解けないでしょう。
フィルターとしての機能は確実にあると感じます。
とはいえ出題される問題はやはり義務教育レベルで、しかも思い出そうと粘ってみたりアナログに手を動かしたりと、やってることが脳トレと一緒。
これは皆様にも是非時間制限を気にせずやってみて頂きたいです。
『ケーキの切れない非行少年たち』に出てくるような知的能力や認知機能が一般常識レベルに至らない人でなければそこそこ解けると思います。
きっと答えを見た時に「そうそう、こうやって解くんだった!」とスッキリするのではないかと。
ちなみに今回入手した『万全対策問題集』には、社会科目の記述問題もバッチリ編纂されております。
今回は解いておりませんが、暗記科目なのでこれもいつか解いて解かせてみたいところ……。
●余談:筆者の懸念
お時間があれば是非……(クリックで展開)
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【結論】
公的な再就職支援の最たるもの。
義務教育レベルと舐めてかかるな!
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【おまけ:総括短歌】
半年間みっちり通えば 就職を決められなくとも 何か得るかも
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
図画 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
職業訓練校試験総合情報サービス
清家孝春氏(『無職の学校』著者)
宮口幸治氏(『ケーキの切れない非行少年たち』著者)
いきなり大量の問題を解かされる羽目になった知己五名
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
ちなみに、当記事の小見出し(『余談』を除く)は『無職の学校』における登場人物の台詞を引用したものです。
・「国の金を踏み台に」
→職業訓練校の面接試験時に受けた質問に対する、主人公が抱いた印象「国の金を踏み台にする価値が、あなたにはありますか?」より。
・「ちゃんと解けるのか……?」
→職業訓練校の筆記試験が難しすぎて、他の人はどうなのか気になってしまった主人公の心の中での呟き「みんな、これ……ちゃんと解けるのか……?」より。
・「そんなアホづらで笑えんすかねー!?」
→主人公とひょんなことから意気投合した元ダンサーが、スマートフォンの待ち受けになっている若かりし頃の写真を見て放った一言「10年後、こーなってるって知っててもそんなアホづらで笑えんすかねー!?」より。
この作品における大半のキャラクターは、舞台が舞台故に無職なのですが、そこに至るまでの道程は正に十人十色。
バックボーンの異なる現・無職が、互いの価値観や譲れないものを巡って励まし合ったりぶつかり合ったりする様は生々しいですが、絵柄がシンプルで温かみがあるためサラリと読めます。
著者・清家孝春氏もかつて通っていたとのことで、恐らくは実体験が元になっているのでしょう。
数話だけ東洋経済オンラインに記載されているので、ご興味があればそちらも如何でしょうか?
END.