▲ビルドは簡単。
グラスに入れるだけですよ奥さん
カクテル、憧れますねえ。
口髭を蓄えた渋いバーテンダーが黙々とシェイカーを振るい、ショートグラスに注いでスッと出してくれる――。
でもアレ以外に処方があるって、ご存じでしたか?
- ●私は知りませんでした(憤怒)
- ●水っぽくなるぞ、シェイクとステア
- ●Build,neither shaken nor stirred.
- ●「not Build」はどうなる?
- ●味変したくて技法を変えたという歴史
- 【結論】
●私は知りませんでした(憤怒)
▲い~ぃ本を手に入れたんですよ
オトナの象徴であるBARに入る勇気も教養も作法も持ち合わせていない20代後半クソガキのワタクシには、『ちゃんとしたカクテル』なんぞ夢のまた夢。
二種のリキュールもしくはジュースをグラスで混ぜ混ぜする大衆カクテルなら、その辺の飲み屋で幾らでも飲んでいるんですがねえ。
「手に入らないなら作れ」を信条にしているので、この度『ちゃんとしたカクテル』のレシピ本を購入。
で、読んでみるとまあ、
▲すてあ?
▲びるど?
▲ほわいときゅらそー?
知らん単語の目白押し。
味の想像などつきっこない。
図鑑を眺めるように「うわあーこのカクテルきれえー(・ω・)☆」という感想しか抱けません。
そんな中、こんなものが。
▲「Shaken, not stirred.」
『007』が好きすぎる父から、あんまり興味が湧かないのに聞かされていたので存じております。
この本曰く、そしてわざわざ指定するような台詞からも分かる通り、本来はステアで作るカクテルなんですって。
じゃあステアってなんなのよということですが、
▲ちゃんと書いてあるんだこれが
▲ほー、シェイク以外にもあるんですねー
よしよし、BARに行かずとも家で作って飲む夢が叶うぞ。
と、この時は本気で思っていました。
●水っぽくなるぞ、シェイクとステア
混ざりにくい複数の材料と氷を一緒に振って、冷却と攪拌を一気にやるのがシェイク。
バースプーンで軽く混ぜて、透明度の高いカクテルを作るのがステア。
どちらもグラスに注ぐ際は氷を取り除きます。
氷はあくまで冷やす目的さえ叶えられれば良く、カクテルそのものには不要なんですね。
時間経過で溶けてカクテルを薄めちゃうし。
さて、水中だろうが空中だろうが、物体と物体が擦れ合うと発生するものがありますね。
摩 擦 熱
熱が氷に触れたらどうなりますか?
融けますよね?
融けたら水になってドリンクに混ざりますよね?
結果、超うっす味。
マジで安い水割りと変わらない味。
▲こりゃ駄目だ
シェイク・ステア共に狙った味にするには、味に影響が出るレベルまで氷が溶けてしまう前に必要充分に冷却できる『混ぜ力(まぜりょく)』と、さっさとグラスに注いでしまう手際の良さが必要です。
要は、熟達必須。
二十七年間手先不器用で通ってきたあたしにゃ、無理だこりゃ。
でも家で、家でプロいカクテル飲みたいんだよ……。
「Shaken, not stirred.」
!
そうか。
あくまで混ぜ方の問題なんだから、無理にレシピ通りの技法で作らなくて良いんだ。
美味しけりゃいいんだ、きっと。
そうでなけりゃジェームズ・ボンドのあの注文が成り立たない!
なるほど悟ったぞ。
ありがとう、ボンドおおお!
▲早速この簡単そうな技法で作るよ!(舐めプ)
●Build,neither shaken nor stirred.
▲一式揃えました
バー・ツール通販サイトのナランハさんで初心者用ビルドキットを購入。
その後確認したら、例のい~ぃ本とビルドキットだけが売り切れになっていました。
やっぱ皆ビルドに行くんだな~と全国2000万人(推定)のビルドキット購入者に親近感を覚えます。
▲「本読んでビルドキット」の流れが見える見える
(画像左上に灰色の四角で『在庫切』と書かれている)
ではでは、味の想像が恐らく世間的につきやすい(けど私は飲んだことが無いので全く分からない)有名処を、全部ビルドで作っていきましょう!
▲Entry No.1:マンハッタン(本来の技法:ステア)
カクテルの女王だからって技法を変えちゃいけないなんてことあるか!
「Build,not stirred」にしてやります。
しかし第一作目にして、早くも問題点発覚。
▲作り辛いことこの上ない
ビルドは、実際に飲むグラスに直で材料を入れて作る技法。
本来はデカ目のグラスに氷も入っていて、そこに液体を入れるのです。
こんなちっちゃいグラスにバースプーンをぶっ刺す様子はあまりにもアンバランスな上、氷を入れる余地などあるはずも無いため冷却もできません。
(ていうかモロゾフのプリン容器だしグラスですらない)
結果、味は良いんですがぬるーいカクテルになりました。
まあ温くてもいいんですよ、そもそも長時間置いておくものじゃないしね。
……いや、味も……良いかこれ?
何か舌にプスプス刺さるような、入れた物それぞれの主張が妙にあるような感じがします。
まあ私は『最強水れもん決定戦』で書いた通り喉にガッと来る奴が非常に苦手なので、単に酒の強さ(※マンハッタンは度数32)でダメージ喰らってるだけかもしれませんが……。
取り敢えず、どんどんいきましょうか。
▲Entry No.2:アレキサンダー
(本来の技法:シェイク。物凄く分離した)
▲Entry No.3:マティーニ
(本来の技法:ステア)
(本来の技法:ステア。
オリーブはうっかり全部食べてしまった)
▲Entry No.5:ダイキリ
(本来の技法:シェイク)
▲Entry No.6:マルガリータ
(本来の技法:シェイク)
▲……。
やっぱり勘違いじゃないな。
やたらとエッジが効いているというか、何と何と何を混ぜましたというのが舌で直接分かる感覚。
素材の味を感じると言えば聞こえは良いのですが、調和していないようにも思えてしまうのは何故なのか。
そして恙なく襲ってくる「ガッ」。
うーん……?
技法によって味が変わるのか?
●「not Build」はどうなる?
そうすると気になるのが、「本来ビルドで作る物を他の手法で作ったらどうなるか」です。
今回は混ぜる強さも混ぜ方そのものもビルドに全く似ていないシェイクで検証。
熟達ができないっつってビルドを選んだのに、結局シェイクもやんのかい!(セルフツッコミ)
▲ボストンシェーカーを購入。
かなり練習した
振り方は取り敢えず「中で空気が混ざり且つ水流が乱れまくる」っていうやり方ならなんだって良いんじゃないですかねえ(説明放棄)
では参ります。
▲Entry No.7:ミントジュレップ
▲Entry No.8:ニコラシカ
▲Entry No.9:ジンライム
▲Entry No.10:スクリュードライバー
(これだけやたらと量が多かった)
▲Entry No.11:カイピリーニャ
▲Entry No.12:フレンチカクタス
(オレンジキュラソーで代替しているため
若干色と香りがついている)
一部異様にきったねえ見た目の奴がいますね。
ミントやライム、レモンを入れて潰し、液体と混ぜるというレシピの方々です。
それをシェイカーの中に突っ込んで、しかも潰してからブンブン振るんですからそりゃ水中に飛び散るわな。
「水垢」という言葉を想起してしまったのも仕方が無いでしょう。
肝心の味ですが、やはり丸くなっています。
『ガッ』の度合いも僅かに減っています。
しかしそれはミント・ライム・レモンといった『香り』が身上のものには悪影響でしかなく、味わいとしての酸味や僅かな苦味を感じる程度に落ちてしまいました……。
入れる意味が皆無になったか? と聞かれれば「そんなことはない」と否定しますが、じゃあ入れた方がいいかというと沈黙せざるを得ません。
香り付けとしてのアイテムが入っているカクテルは、サーブ直前に数滴追加するなどそもそもシェイクしないものが殆どであることを考えると、むべなるかなと得心がいきました。
●味変したくて技法を変えたという歴史
シェイクで作った、細かに空気と触れたまろやかさを求める人。
ステアで作った、僅かに氷が融けて混ざった水によって取り持たれる味を鋭敏に感じられる人。
ビルドで作った、ベースの酒の刺すような風味が好きという人もいるのでしょう。
ジェームズ・ボンドもまろやかさを求めて、故に「Shaken,not stirred.」と頼んだのかもしれません。
この話を裏付ける事実をもう一つ挙げると、ジンライムをシェイクで作るとギムレットになるというもの。
否、正しくは、ギムレットの味をやや武骨な感じにしたいと言うことで、ステアで作ったものがジンライムなのです。
▲い~ぃ本にもはっきりと
カクテルとは本来、質の悪い酒の不味さを隠すための苦肉の策。
ですが今やベースの酒単体でも美味しい時代。
融け合う風味を楽しむか、入り交じりつつも個々の輝きを失わない強さを望むか。
それが技法の違いに出ているのだなあ……とぼんやり思っている内に、吐き気がしてきました。
全てアルコール度数が二桁のカクテル。
どう考えても飲み過ぎです、本当にありがとうございました。
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【結論】
飲みたい味に合わせて、技法を選べばいい。
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【おまけ:総括短歌】
美味い酒 飲みたいという欲望が生んだ数々の技法とレシピ
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
撮影 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
上田和男氏(『カクテル手帳』監修・バーテンダー)
今福貴子氏(『同書』取材・文)
高田浩行氏(『同書』撮影)
株式会社ナランハ(↑の運営会社)
ジェームズ・ボンドシリーズ
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
▲腱鞘炎になるの二回目だよ……はぁ……
The END.