▲正体不明
慶 祥 麗 春
餅・お節及び七草粥を鱈腹食らいまくった胃様、お疲れ様です。
もっと優しいものが食べたいですね。
粥よりユルいものといえば、スープです。
絵本に載ってるスープなら絵柄同様にめっちゃユルいはずなので、作りました。
●絵本の描写で腹が減る
大人になってから絵本を見返すと、極めて優秀な表現だらけであることに気づきます。
直球な絵の表情、すんなり染み渡る描写、優しいながらも人として大事なことを述べた内容……。
大人になってから絵本読んでない人は、人生損してるのでは。
とはいえ、食い意地の張った私が注目するのは食べた人々の描写。
▲見てこのイイ顔
▲めちゃめちゃ幸せそう
こういう絵本を読み聞かせすると、子供に高確率で求められるんですよ。
「同じの作ってくれ」って。
(そしてすっくない情報を元に作ると、子供が食べつつ釈然としない顔をするものなのは最早世の常である)
絵本に出てくる料理の中でも、スープは比較的簡単に再現できそう。
だから今回はそれを作って食べて胃を労ろうっていう、ただの勤労感謝企画です。
折角なので三連打しました。
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①石のスープ
いきなり超ヘビーというか、食えそうもないタイトルが来ましたね。
▲作品は『せかいいちおいしいスープ』
ポルトガルの昔話(石のスープ)をベースにした作品で、似たような内容の絵本が数々出版されています。
その中でも特に表情に味があるのが、本作の特徴。
▲これとか
▲これとか
▲こんなドヤ顔も
さてここに出てくるスープは、著作権の関係で原文を完全には載せられませんが、こんな感じでございます。
郷里に帰る旅路の最中、兵士三人が村に来たが、村人が食べ物を隠匿する。
困った兵士は一計を案じ、以下を述べた。
「食べ物を分けてもらおうと思って立ち寄ったが、無いなら仕方ない。今から石のスープを作ることにしよう」
そして次の手順で作っていく。
①まず、大きな鉄鍋を用意し
②火を燃して、これに水を入れる
③出来るだけ丸くてすべすべした石を三つ入れ
④塩と胡椒をStandbyしておく
……これだけでも美味いスープになるらしいですが、しかし続きがあります。
⑤人参を入れるともっと美味しくなるので追加
⑥そして大概キャベツが入っているので追加
⑦後は牛肉とじゃがいもがあれば金持ちの食卓レベルになるので追加
⑧ついでに大麦が一握りと牛乳がコップ一杯あれば王族レベルになるので追加
で、完成したスープを村人全員と分けましたとさ。
……赤字が材料です。
それだけピックしてみますよ。
石 塩 胡椒 人参 キャベツ
牛肉 じゃがいも 大麦 牛乳
『石』の違和感よ。
そして味付けが塩胡椒しか無いのかよ。
明らかに兵士に詐欺られてますよね、村人の知能レベルを疑います。
とはいえ実際に食べた村人が美味しいと述べているので、ぎゃあぎゃあ言わずに作りましょうか。
▲鍋を用意して
▲火を付けて水を注ぐ
▲石を三つ入れたら、塩胡椒を忘れずに用意
▲絵本だと輪切りの人参だったな
▲キャベツは切り方書いてないけど大きさ揃えよう
▲部位分かんないけど海外は赤身が人気だからコレかな
▲ていうか根菜煮てから葉物だよな?
▲大麦っていうか押し麦だけどまいっか
▲牛乳入れて塩胡椒して
▲完成
後半の材料の切り方や使う部位が全く読み取れなかったり、押し麦は煮るのに二十分掛かったりして想定以上に時間が掛かりましたが、何とか完成に辿り着きました。
で、肝心の味ですが……
んまい。
味付けが塩胡椒のみなのに、しっかり美味しいです。
普段から濃い味付けのものしか食べていない人には理解できないだろうレベルで繊細な味ですが、 これなら絵本にもある通り王様も嗜むことでしょう。
具体的には肉の出汁、人参の甘さ、キャベツのじんわりした旨味、大麦のプチッとしたアクセント、じゃがいものとろみ、牛乳のコクが舌全体に染み渡るような感じ。
絵本ではお酒やパンと一緒に食べて宴会騒ぎになっていましたが、お酒を飲んだ後にこそ食したい優しさを感じます。
石はまあ、保温に役立つんじゃない?(適当)
なお兵士達はその後村人に歓迎され、泊まらせてもらえた上に金まで頂戴してました。
尊敬の眼差しを受けつつ、兵士はにやりと笑い、
▲ダッシュで逃げ去る……
いなくなって数分してから気づくんだろうな、これ。
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②人参入り人参のポタージュスープ
二回も人参と言ってしまってますが、こうとしか言いようが無いんですよ。
▲『おなべおなべにえたかな?』より
福音館書店が発刊する伝説の月刊誌『こどものとも』にて掲載され、傑作選として改めて書籍化された本作。
絵もさることながら、本作のストーリー展開が最高であります。
狐の女の子・『きっこ』と鼬の男の子・『ちい』と『にい』は、森の医者である大ばあちゃんの元へ遊びに行く。
スープ作りと同時進行で豆剥きを手伝っていると、大ばあちゃんにレスキュー要請が。
留守の間スープの番を任されたきっこ達だったが、味見と称してすっかり食べ尽くしてしまう。
焦るきっこ達だったが、土鍋の助言で別のスープを作ってリカバリーに成功。
帰宅した大ばあちゃんにバレることなく、皆でスープを楽しんだのだった。
今回作るのは、このきっこ達に食べ尽くされてしまった方のスープです。
味見の様子を見てみると、
①蓋を開けた第一印象が「人参スープだ。綺麗だね」
②味見をし「でもまだ固いわ」
③塩胡椒をして蓋をする
④次の味見で「やわらかい」と発言
⑤バターを入れて蓋をする
⑥最後の味見で「甘くてとろけるようだ」
ベースが不詳。
人参スープなのは確定してますし、オレンジ一色という絵を見る限りポタージュなんだろうと想像できます。
しかしよく見ると、更に濃いオレンジで四角い粒が描かれている。
この四角い粒を食べて「まだ固い」だの「やわらかい」だの言っているのでしょう。
人参でしょうね、これも。
つまり人参のポタージュスープに改めて人参をINするというもの。
世界探しても、出来上がったポタージュに素材そのものを刻んで入れるってまあ無いと思うんですが、私が無知なだけでしょうか。
▲まあ取り敢えず作ってみたんですよ
▲そしたら確かに綺麗なの
▲でも固いのね、人参が
▲きっこ達の言う通り、塩胡椒してもっと煮よう
しばし待つこと五分程。
おなべ、おなべ、にえたかな?
▲煮えた(写真だと全く分からない)
▲でもコクがあからさまに足りないのでバターin
▲完成 with パン
うっかりパンを添えてしまいましたが、言い訳させて下さい。
スープベースは一般的な人参のポタージュスープだろうなと思いました。
しかし極めて普遍的なやり方である、人参と玉葱を炒め合わせるレシピは使えません。
だって狐は犬亜科だから!
犬亜科=犬の仲間=玉葱中毒!!
で、仕方なくジャガイモで対応。
味見してみたら、とろみが強まりポクポク感が増していました。
これは絶対的にパンに合う(確信)
▲だから浸けちゃうよね
ハイ勝利~!(←何にだ)
鶏ブイヨンを下地に人参の甘味が鼻を抜け、ジャガイモのとろみが長きに渡り口に幸せを留めてくれます。
そして人参の欠片を噛む楽しみが、とろけるだけでない味わいをもたらしてくれる。
パンを浸せば、その塩気や僅かな酸味とベストマッチ!
きっこ達がパンを持っていたら、もっと早くスープが無くなっちゃったんじゃないかなあ……。
ところで、子どもの時に抱いていたこの絵本への感想は「怒られなくて良かった~」でした。
しかし今見返すと、大ばあちゃんの心の広さに感動します。
▲だって人参のスープが
▲タンポポと豆のスープに変わってるんだぜ
普通分かりますよね、「こいつら食べたな」って。
でも大ばあちゃんはこう言うんですよ。
「よくお鍋の番ができたこと!」
食べたな! とは叱らないんです。
食べちゃったこと、それを挽回しようとしたこと、結果的にその挽回がちゃんと出来たこと……全部分かってます。
やっちゃったことはしょうがない、それを言っても意味が無い。
今大事なのは、その責任を取ってどうリカバリーしたか。
だから大ばあちゃんはリカバリーまで含めて「お鍋の番ができた」と言ってるんですね。
きっこ達はまだ「怒られずに済んだ~」とホッとしているだけですが、おばあさんになってから気づくことでしょう。
大ばあちゃんの深い愛情とどっしりした精神に。
最高のストーリー展開。
素敵です。
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③おだんごスープ
最後はしんみりしちゃう若干大人向けの絵本から。
▲至高の女流作家・角野栄子氏の隠れた名作
これ、明らかに子ども向けではありません。
何せストーリーがもうね。
伴侶を亡くしたおじいさん。
何をする気も起きず、出来合いのパンと牛乳だけ食べつつ座り込む日々。
ある日、妻が作ってくれた思い出のスープをもう一度と思う。
妻がスープを作りながら口ずさんでいた歌を思い出しながら、失敗を重ねつつも連日作り続けるおじいさん。
匂いに釣られてお客さんが日々やって来る。
やがて完成したスープをお客さんと共に食べたおじいさんは、穏やかな笑みでこう呟く。
「やっと、おばあさんのおだんごスープとそっくりになった」
涙無くして読めません。
妻を亡くしたことだけが悲しいのではありません。
このおじいさんが、料理を通して地域コミュニティに復帰するまでの一連の流れが切なすぎます。
スープを作る匂いが漂うまで、誰も訪問しなかったってところが特に。
描かれてないだけなら良いんですけどね……。
途中の失敗ですが、妻の『おだんごスープの作り方ソング』を一フレーズずつ思い出していくのです。
だから材料が足りなかったり、味付けが少なかったりする。
そして訪れるお客さんにスープを振る舞い、帰宅を見送ってからおじいさんは残ったスープを一人で食べている。
そして「何か違う」「もっと美味しかった」と首を傾げるのです。
でも最後、歌も全部思い出し、大勢のお客さんに囲まれて一緒に食事を取った。
だからやっと妻が作ったおいしいスープになった。
フレーズ通りに作っただけで、もし一人で食べていたら、本当にそれは美味しいと感じたでしょうか?
▲分析はさておき歌うよ、
「ぐらぐらお湯に お肉のお団子丸めてぽとん」
▲「小さいジャガイモ 皮剥いてぽとん」
▲「小さい玉葱 ころころぽとん」
▲「人参輪切りで くるくるぽとん」
▲「最後に塩とバターと胡椒を少々」
▲完成
作りすぎた。
鶏胸挽肉(=海外で売られている挽肉の中で人気の種類)の団子がもう多いし、小さい玉葱=ペコロスを入れた辺りでどう考えても一人前じゃなかった。
だから両親の朝食に分けて、一緒に食べることに。
以下、青が父・赤が母・緑が私の感想。
※兄は寝坊
・要するにポトフ
・野菜出汁が縁の下の力持ち
・バターと肉だけでこうも旨味が補填されるものなのか
・優しいが薄いというわけではない、好きな味
・塩胡椒とバターだけでこうもなるのか
・ペコロス初めて食べたけど、小さい玉葱なのね
・高かったからもう使わないと思うよ
キャイキャイ言ってますが、要するに美味しいということです。
①の石のスープばりに繊細で、しかも今度は牛乳も入っていないので、ホントに素材から出る味しか無いレベルのはずです。
しかしバターは油の満足感と僅かな乳の香りを添えている程度にも関わらず、確かにそこにいると感じられる。
肉団子は噛み締める程にぎゅっと詰まった「肉味」が染み出てきます。
そしてジャガイモはほろりと崩れ、人参も滋味をスープに広げているのです。
ペコロスも柔らかく、溶けそうな程に煮上がりました。
はっきり言って難易度は低いです、素材切って入れて煮るだけなので。
でもこれで喜んでもらえるなら、自分も一緒になって楽しめるなら――。
▲だって今までの三つとも
▲誰かしらと一緒に
▲食べてるしね
おじいさんは次なる生きがいを見つけたんだなあ、としんみり思いました。
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【結論】
絵本のスープは再現簡単。
誰かと食べれば更に美味しい。
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【おまけ:総括短歌】
子ども向け 簡単だけど その奥に 見える本当に 大切なもの
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
撮影 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
マーシャ・ブラウン氏(『せかいいちおいしいスープ』文・絵)
小宮由氏(『同作』翻訳)
岩波書店(『同作』出版社)
小出保子氏(『おなべおなべにえたかな?』作)
福音館書店(『同作』出版社)
角野栄子氏(『おだんごスープ』文)
市川里美氏(『同作』絵)
偕成社(『同作』出版社)
年末年始の暴飲暴食に耐えきった胃
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
さて、今回は一つ、再現したかったのに出来なかったものがありました。
▲これだ
タンポポと豆のスープ。
元々人参スープが入っていた土鍋に水と材料を入れて作るだけのスープ。
出汁は土鍋に染みていた人参スープのそれがあるから良いとしても、具ですよね。
タンポポは花、茎、根っこ、全て食べることの出来る最強の野草です。
一般的に美味とされる野草の中でも採取難易度が劇的に低いのも強み。
ただ一つの難点を除けば、常に家庭栽培していても良い程に美味しいのです。
ほろ苦く、ほんの少しだけ香る甘さと青臭さは、一度食べた人ならもう一度と間違いなく考えるでしょう。
ただ一つの難点――採取時期が非常に短いこと。
この絵本にあるように花が開ききった状態のものは、尋常じゃなく苦く青くっさい!
スープにしようものなら、その苦味・青臭さがジュンジュン溶け込んで、飲めたものじゃなくなります。
じゃあ花はいつ食べられるのかというと、蕾の状態。
それって再現とは言えませんよね……。
豆にしても、狐が食べられる野生の豆と考えればカラスノエンドウやツルマメですが、こいつらをスープに出来るレベルで集められるのかって話です。
非現実的。
人間が似たものを作ろうと思ったら、こうなります。
【レシピ】
・食用小菊:好きなだけ
・グリーンピース:冷凍でも生でも好きなだけ
・塩胡椒:少々
【作り方】
①鍋に水を湧かし、グリーンピースを入れ煮る
②火が通ったら塩胡椒をする
③仕上げに小菊を入れ、一煮立ちさせて出来上がり
……食用小菊って何だか分かりますか?
▲これ(写真もリンク先から引用)
刺身の上に乗ってる奴です。
似てるって? でもタンポポじゃないのよ!
これは再現って言いません。だからやりませんでした(泣)
▲他の絵本スープについてはこれでひとつ
The END.