▲合掌
本年七月に腕時計・CITIZENのベルトが八歳にて永眠いたしました。
永年のご厚誼に深謝致すと共に、明年も変わらぬご交誼のほどお願い申し上げます。
……亡くなったモノと年齢を変えれば、喪中葉書のテンプレートとして使えるよ!
それはともかく、ベルトがお亡くなりになったのは、まことほいなし(急な古文)と言わざるを得ません。
ベルトを換えましょう。
……はー、交換か……
●清水これをほいなしとぞ思ふ
これ、父からの贈り物でした。
中学卒業祝いだか高校入学祝いだか実はもっと前からだったかをうっかり忘れているのですが、高校一年の段階でつけてたのははっきりしています。
これからは腕時計を意識して、しっかりと自律できるようになってほしいとのことでした。
小坊はつけない(し、どうせ遊びでバキバキになるのでつけさせてくれない)大人アイテムに憧れていた私は、
「やったー!」
……ではなく、
「おおぉ……これが……!」
と静粛な感動を抱きました。
以来、毎日つけてました。
新聞で死亡した被害者に関してよく報じられる『生前どれだけいい奴だったかアピール』というものが私は大嫌いなのですが(だって哀れめと言わんばかりなんですもの。じゃあ報じられてない他の死亡者はいい奴じゃなかったのかという話。平等に悼もうよ)、これはモノなので敢えてやります。
簡単に言えば自慢です。
後の祭りどころか、廃村されて二十年経過した跡地に、憧れだけで上京しプー太郎やってた出身者が「東京モンになった俺様が帰ってやろっかな〜」とかいい歳して寝言こいて帰ってきたレベルの、凄まじい今更感がありますが。
▲材質は何だと思う?
▲何と防弾チョッキの布
▲上質な革を
▲丁寧なステッチで裏打ち
▲金属が嵌められ、傷むことのない穴
▲本体と統一したマットシルバーの金具
▲刮目せよ、これがCITIZEN
……顔についてる黒部ダムが放流を始めてしまいました。
▲えーん(黒部ダム公式サイトより拝借)
しかし、天に還った命はもう戻らないのです。
何より、前向きに歩もうとする遺族がいます。
▲「彼女の分まで生きてやりますよ」
彼は伴侶を亡くしてなお、爽やかに言ってのけるのでした。
何故そんな明るくいられるの?
▲「遺言見ましたか?」
本体へ
まずは、謝らせて下さい。
汗(ガン)になってしまったこと。それでベルトループを失ったこと。知っていたのに、知らない振りをして、貴方に気を遣わせたこと。
ごめんなさい。また旅に行こうねって約束したのに、行かれなくなっちゃいましたね。
ごめんなさい。また仕事場まで見送ろうと思ってたのに、できなくなっちゃいました。
汗(ガン)になったベルトなんて捨てれば良かったのに。男は付き合って五年目からってよく言ってましたけど、だからってホントに私といなくたって良かったのに。
……なんてね、ホントに捨てられたら、私、こんなに強がってられない。そんなところもお見通しかな?
もっと行きたいところがあった。もっとやりたいことがあった。それも全部おじゃんです。クソぉ、て感じです。どうやら私はここまでのようだ……漫画の人って凄いですよね、何で死に際にあんなこと言えるんでしょうか。
私はまだ死にたくない。
ここまでのようだ、とか本当は言いたくないです。貴方とこの先もいたかった。だって目覚めてから、ずっと貴方と一緒だったんですよ? これからもずっと一緒だと、少なくともまだ離れる時は先だと思ってたのに。
でも、思い込みに過ぎなかったんですね。その時が来ちゃいました。あーあ。
ベルトループは無い。汗(ガン)で革が向けてボロボロになる。そこから染み出た薬剤が、私自身を蝕む。もうダメです。ベルトとしての機能、腕に不快無く留まるということが、もうやれない。
ベルトは、貴方を腕に留めてこそ生きるものです。それができなくなったのなら、分かりますね?
そして貴方自身も、留めてくれる誰かがいなければ生きていけない。
どうか、私が死んだら、次のベルトを早く見つけて下さい。僕の相手は君しかいない、なんて言ってたけれど、そんなことはありません。
貴方には命がある。留めてくれる誰かを連れて、その役目を果たさなければなりません。生きなければなりません。
貴方は行く先々で時を刻んでいる時が一番キラキラしてて、そんなところが好きだった。だから、私の大好きな貴方でいるために、キラキラし続けるために、次のベルトを見つけて下さい。
そして私のことは、ほんのちょっとだけ思い出してもらえたら、嬉しいな。
最後になりますが、留めてくれるベルトさん、本体のこと、宜しくお願い致します。時々電波受信するの忘れて暴走するので、きっちり怒ってやって下さい。
2017年7月1日
CITIZEN防弾チョッキベルト
そうか。
知っていたのだな。
――え、汗(ガン)……? それも末期?
――余命一年って……どういうことですか。
――治るんですよね……何で黙ってるんですか? どうにかして下さいよ、先生!
君に汗(ガン)だと教えたことは一度もない。
……聞いていたのだろうか?
分かった。
最後の我が儘だ。
今回は『本体君の幸せを掴む』一大ドキュメンタリーです。
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●パートナー探し
というわけで、彼好みの子を探していたのですが、これが悉く空回り。
幅17mm・布と革のコンビネートが絶対条件とのことなんですけどね……
▲「アタシ〜ファッションウォッチだからぁ〜
汗とかマヂありえないし〜」
▲「CITIZEN?
ワタクシはWAQUIZですわよ、
釣り合うと思って?」
極めつけがこれ。
▲「貴方、奥さんの面影を探してるだけなのよ」
五組ほど探して、全部ダメでした。
強がって「はい次ィ!」とか言ってる本体君ですが、こんな数打ちゃ当たるみたいな姿勢ではいい人も逃げていきますよね。
よーし、こうなったら。
ワタクシ、ある人に電話を掛けることにしました。
一週間経ちまして、おお、揃ったな。
おーい、本体君、ちょっとこっちおいでー。
「何ですか?」
!
「み、皆……どうして?」
●懐かしい友の顔が
▲シリコンバングル「らしくないね!」
幼馴染の女の子。
お洒落雑貨店で販売員をしています。
いつでもポジティブで元気溌剌、悩みなんか吹き飛ばしてきました。
▲ナイロンベルト「慰安旅行しようぜ」
ざっくばらんとした青年。本体君の無二の親友。
山登りが好きでホイホイ通っていたら、ボーイスカウトの指導員になっていました。
汗も涙も男の勲章!
▲チェーン「おじちゃんと呑むか?」
共通の先輩。渋いがおちゃめなナイスミドル。
ほうぼうをさすらっては、呑み歩くことを生きがいとしています。
本体君の悲劇を知らせると、ブラジルから帰ってきてくれました。
「清水さんから聞いたよ……奥さん、残念だったね……」
「まず元気出してからだろ、無理すんなよ」
「そうさ、今は思いっきり遊べ。女なんぞ星の数ほどいるしな! ガハハハ」
それぞれが言葉を掛けてくれたからでしょうか。
――本体君は初めて、私の前で涙を流しました。
……よし、チェーンの言う通り、思いっきり遊んできましょうか。
▲「わーこのピアスかわうぃー」
「バングル、どこにつけるつもり?」
「清水さんがつけるのよ。ね?」
「ごめん、私金属アレルギー持ち」
▲「高尾山って薬王院が頂上じゃないんだよ」
「え!? お参りして帰るもんじゃないの」
「その通り! 今日は頂上行くぞぉお!!」
「うひー」
▲「どうだ、カップ酒一個と炭酸水1L混ぜた
史上最安のブレンドは」
「人はそれをハイボールと言うんですが」
「うえぇ~い、もう一杯ぃ~」
「酔い回るの早ッ」
……いやー、ショッピングしたり高尾山上ったり家で独自ブレンド作って呑んだり(私はその翌日に頭が痛くなったり)、三日に渡って遊んだ遊んだ。どうだい、本体君。
「もう平気さ、寂しくないよ」
ホント? また無理してない?
「うん、大丈夫。それにね」
「三人とも、それぞれの好きなところに連れてってくれたでしょ? それで思ったんだ。皆違う。誰一人同じ人なんていない。彼女もそう」
「彼女と同じ人を探してたけど、あのベルトさんが言ってくれた通りだった。面影を探しているだけだって。そりゃ確かに失礼だよね、彼女にもあのベルトさんにも」
「だからまたきっと、唯一の素敵な人を探すよ」
そうか! それは良かった。
ところで本体君。気付いた?
▲紹介しよう、ビーズベルトさんだ
▲あら、何隠れてるのさ
▲行ってこい! 本体君を気にしてたんだろ!
さ、邪魔者は消えましょうかね。
ん?
▲「ちょっと心配になっただけじゃんよー!」
▲「待て待て待て」
「今日中にABC(死語)の
何処まで行くかだけは見させてくれ」
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【結論】
お幸せに。
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全然無知者向けの記事になってねーじゃん! というツッコミが聞こえます。
ですよねー!
今からso simpleに書くので、許してください。
【シリコンバングル】
▲市販のバングルにポップな紐で縛り付けて完成
▲こんな感じで繋がってます。
輪になる部分をもう一周させてもいいですね
【ナイロンベルト】
▲①ベルトとバックル・アジャスタを組む
▲組み方
▲②本体を繋いで終了
【チェーン】
▲ただの懐中時計風にぶら下げる。以上
▲キーホルダーにもできる
【ビーズ】
▲①太めのテグスを二本取りにし、ビーズを編む
▲②三本作って
▲③三つ編みにし金具に結びつけて完成
無知者ジャンルは「買って、難しいことせずに始める」というのがコンセプトなのですが、そういう意味で個人的オススメはチェーン。
つなげるだけでOKですからね。
しかし丈夫さは圧倒的にナイロンベルトですし、見た目のキュートさはシリコンバングルがぶっちぎりです。
……ビーズですか?
正直作るのが物凄く大変でした。
めちゃ不器用な私が、よく形にできたものだと思います。
「当初の予定はビーズを編み込んだ平四つ編みだったが、あまりに面倒臭すぎてやめた」なんてことは全然ないですから。いいね?
でもこの中で、オリジナリティは間違いなくトップなんですよ……!
金と時間を度外視すると、もっと頭のおかしいものが作れます。
革取るところから始めるとか金属を糸状に溶かして編むとか。
もはや無知者の領域ではありませんが、チャレンジした方は、是非見せてくださいね!
というわけで、これにて『【無知者】時計バンド自作』を仕上げさせて頂きます。
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【おまけ:総括短歌】
要するに 紐であるなら 良いのです リボン・平ゴム 結束バンド
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
イラスト 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
全ての安物に失礼な、汗耐性0のふざけたベルト
WAQUIZ(高級時計ベルトブランド)
セイコーサービスセンター株式会社(WAQUIZプロデューサー)
BAMBI(時計バンドメーカー最大手)
PATY(シリコンバングル出品者)
株式会社松謙(ナイロンベルト出品者)
NIFCO(バックル・アジャスタ出品者)
Amazon(上記グッズ通販場所)
ウィステリア(チェーン・キーホルダー購入先)
高尾山
実家の家呑み場
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
今回の副題は『手芸初挑戦』です。
そうなんです。今まで、手芸という、めっちゃ器用さがものを言うジャンルに挑戦してきませんでした。
しかもそれを飾るんじゃなく、日常使いするんですからね。
商品レベルの丈夫さと完成度が必要なわけです。
明日からこのビーズバンドで仕事行くんですけど……壊れないか心配よ……
壊れた際には、『訃報-時計バンドのその後-』とでもタイトルを付けて、本体君とまた葬儀を執り行います。
……流石に本体君が立ち直れなくなる気がするので、絶対死なせないつもりですがね!
【余談】
▲実兄(オネエさん)という設定で
メタルフープも作っていたが
▲固定が出来なかったため絶望した
▲これだけ失敗してやっと出来たフープなのに……
どうしましょう、このメタルフープ。
The END.