▲マジかよバイヤー
来年・2021年は、日清カップヌードル誕生50周年!
そしてその誕生のきっかけとなったチキンラーメンver.袋麺は既に誕生60周年(2018年)を過ぎ、同じく来年にチキンラーメンver.カップ麺が30周年を迎えます。
まだ五月なのに随分気が早い告知ですが、うっかりしただけなので気にしないで下さい。
ていうかもう五ヶ月経ったのかよ。はえーよ新年。
さてそんなインスタント麺の始祖、どうやって誕生したか、皆さんご存じですよね。
●バイヤーの工夫で閃く
事の発端は1966年。
レジェンド・安藤百福氏がチキンラーメン、略してチキラーを持って意気揚々とアメリカに突撃した際のこと。
バイヤーにチキラーを売り込もうとするが、時代が時代なので氏はある事実をここまで知りませんでした。
「どんぶりと箸がねえええ」
さあ大変だ。チキラーは当時袋麺。
深い入れ物と箸で食べること前提で作っていた。どうしよう。
唸っているとバイヤーが紙コップにチキラーを割り入れ、フォークで掬い上げて食べ始めた――。
このバイヤーの行動を見て「じゃあ紙コップサイズの小分け袋麺で出すか」ではなく「最初から容器に入れて売ろう」と思うんだから、経済的発想って凄いですよね。
今でこそお椀で食べるチキンラーメンとかチキンラーメンminiが存在しますが、それをこの時出していたら、あまり売れずにフェードアウトしたのでしょうか。
で、この話には続きがあります。
ホテルに帰った氏は、早速真似をして紙コップとフォークで食べてみました。
しかし当時の紙コップはパラフィン紙製、お湯を入れたせいでパラフィンが溶け出した様子。
「紙コップ臭くておいしく食べられなかった」と後に述懐し、環境ホルモン問題が起きてもギリギリまで発泡スチロール製の容器を変えなかった程、この時のチキラーin紙コップは不味かったようです。
※ちなみに氏が亡くなった一年後には全商品が紙製の容器に変わっている
そんな天国の氏にお伝えしたい。
紙コップ、今はお湯入れても不味くないはずよ!
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●チキラーを作るのに良いコップ選手権
↑この見出し通りです。
今回は先述の開発秘話に準えて、チキラーを様々な材質のコップに入れて作ってみます。
何かの調べ学習で紙コップの変遷を調べていて、
・昔はパラフィン紙だった
→蝋が溶け出すので熱いものは不可
・現在はPEラミネート
→レジ袋の素材で紙を覆う。熱に強い
ということを知り、「では氏が言っていた紙コップ臭さは今無いのでは」と単純にやってみたくなったのです。
【ルール】
①麺をフルでブチ込み湯を注ぐ
公式に推奨されているチキラーのお湯目安量を参考に、各種コップに入る水量と麺を調整……したかったけど面倒臭いのでやりません。
バイヤーもそこまで考えていなかったはず。
そのため一旦フルに麺を割り入れてから湯を注ぎ、柔らかくなったところで湯が不足していれば追加するというびっくり水方式で行きたいと思います。
蓋すらしません。
②コップに入れて、フォークで食べる
実際にお湯を入れても問題の無いコップとして売られているものだけを集めました。
自分で木を切り出すとかそんなことはしません。
そして箸は使いません。様式美の追及。
③具など無い
卵だの葱だの一切追加しません!
どこまでもあの時のバイヤーに準拠します。
【ルール説明終わり】
ではドゥオンドゥオンやっていきましょうね~。
①紙コップ
至って標準、何処にでも売っているフツーの紙コップ。
違うのは大きさですが、今回は極めて汎用性の高い205mlのものを用意。
▲作成中
しかし今まで蓋もせずに作ったことはありませんが、本当にちゃんと戻るんでしょうか……。
若干の不安を、しかし漂い始めたあの香りが吹き流していきます。
▲完成。シンプルイズベスト
んじゃ、早速食べてみましょうかね……と手を伸ばしたその瞬間でした。
▲あっつ!!
ぬおぉ持てぬううぅ!!
普通のカップヌードルと同じ感覚で鷲づかみしたら、掌を焦がされましたよ!
後で調べて分かりましたが、あのカップヌードルの容器、手で触れる表面だけ発泡スチロールでコーティングしてあるんですね。
だから持っても適度な温かさしか伝わってこなかったのか。
仕方ないのでお湯がギリギリ届いていない上辺だけを、親指と人差し指で囲むように所持。
ズズズ。
ああ~、安心する味です。
気持ち濃いめに仕上がりましたが、ふとした瞬間に食べたくなる、あの若干ジャンキーな鶏ガラ醤油の味。
麺も問題なくしっかりと戻っており、軽食として食べる分には全く問題なし!
フォークで食べるというのも、決して食べづらいことはなくするするとイケます。
最後の麺の欠片はスープと一緒に啜っちゃえばいいですしね。
片手でクイッと飲み干して、ごちそうさまでした!
蓋をしなくても、少量なら全くもって大丈夫ですね。
先述の『お椀で食べるチキンラーメン』も蓋をせずに作るものなので、分かり切っていた方もいることでしょうけれども。
但し紙コップは、熱いものを長時間入れておくと染み出てくることがあるようです。
麺類を長時間入れっぱにすること自体あり得ないので問題ないと思いますが、念のため。
▲持ちにくさが唯一の難点
②陶製コップ
取っ手がついているものをチョイス。
ドイツで売られているカップヌードルの容器は陶器だそうなので、まあ結果は見えてますかね。
▲完成。そこはかとない既視感
取っ手があるので先程のように「持てぬううぅ」となることもなく、速やかに実食できます。
ズズズ。
うむ、やはり美味しい。
先程よりも味が薄めになり丁度良い塩梅になったのは、若干容量が多いからでしょうか?
どう見てもチキンラーメンmini(=カップに入れて作ることをコンセプトにしている)とかそういう先走った感想を抱いてはいけませんよ。
陶製コップの難点は、その重さと、落とした時に割れる心配があるところ。
ドイツのそれも当然その難点を有しているはずで、しかも安価な紙で作っていない分値段も上乗せされているとか。
しかし衛生的には間違いなくNICE。
味に影響も出ないですしね。時間経過でコップがフニャることもありません。
▲あのキンキン音はどうにかならんか
③金属製コップ
アウトドアでよく使われる、衛生的で壊れにくい道具は金属製。
今回用意したコップにはキーフックがついているので、リュックサックにぶら下げて携行できます。
レジャーシーンでチキラーを食べられるなら、その速さと相まって超便利だと思いますが、果たして。
▲完成。如何にもアウトドア
▲熱い……
分かり切ってましたけど熱い。
取っ手までフルに金属なので、持てなくはありませんが長時間はキツい。
勿論本体はギュンギュンに熱いので無理です。
ズズズ。
450mlと、先の二つよりも遙かに容量が大きくなったことで、まさかのチキラー丸一個がin!
その分味も濃くなり、濃い味が苦手な私にとっては顔をしかめる程のしょっぱさになってしまいました。
アウトドアで疲れた体には丁度良いのかも?
とはいえ、ある程度食べてからお湯を追加すれば濃さの調整が可能です。
これはアレか、一度で二度美味しいという奴か。
それにしても、卵や葱が無くとも味が成立しているチキラーは素晴らしいですね。
個人的な感想ですが、他の袋麺タイプのインスタントラーメンは野菜炒めなどを入れないと明らかに物足りなく感じるんですよ……。
「手軽にラーメンを」という思いから始まったとはいえ、「湯を入れれば成立する料理」というのは手軽さを超えて他愛も無いというべき境地に達してはいまいか。
と、食べ進めていて、スープを啜った瞬間でした。
「血の味がする……」
そら金属舐めてんだから当たり前だろって一瞬思いましたが、でもフォークだって金属ですよね?
それを使ってても感じなかったのに、この落差は何。
明らかにコップのせい。
故に、生命を連想する羽目に……。
お前の親の血肉を感じるよオイ!
▲入ってこないでひよこちゃん
④シリコンコップ
コップ界のニューウェーブ!
……と言う程に目新しいモノではありませんが、割れない・軽い・衛生的と、全コップ素材の良い点ばかり集まったものであることは確か。
今回入手したのは、折りたたんでコンパクトに携帯でき、カラビナ(登山用の超丈夫なフック)つきなのでぶら下げることも可能という優れもの。
容量も350mlとなかなか多め。
▲完成。ポップな見た目
プラのリングを持てば、熱さも気になりません。
ズズズ。
う~ん、美味い。
やっと丁度良い塩梅の鶏ガラ醤油スープになりました。
ふとした瞬間に食べたくなり、実食すると五臓六腑に染み渡る旨味。
食べている最中も、フォークが当たってもキンキン音が鳴らないし、スープを啜ってみてもコップ由来の匂いは感じません。
寧ろレジャーに持っていくべきはこのシリコンコップですね。
折りたためるよう段がついていることも手伝って、食べにくさは感じません。
とにかく優秀!
……と、食べ終わった後のコップを洗ってお茶を淹れて飲んだところでした。
ふわ~ん
現れたゴム臭。
どうやらスープの味と香りがゴム臭を打ち消していただけで、この臭いは存在していた様子。
儚い香りと味わいのものを入れるなら要注意ですね。
そういう意味でも、シリコンコップはアウトドアでご飯を食べるのに使うべきではないかと。
カレーとかシチューとか。
▲なお洗うのが一番面倒な素材である
⑤耐熱プラコップ
それなりの容量があって持ちやすく、しかも耐熱のものというのが、よりによってこれしかありませんでした。
別にルネサンスしたり未練心を打ち明けたりはしません。
▲完成。何この無駄な格好良さ
とはいえ耐熱温度は90℃。過信はしないのが良いでしょう。
ズズズ。
衝撃の600mlという容量であるこの割れないワイングラスも、まさかこんな使い方をされるとは夢にも思っていなかったでしょう。
すぼまった口から噴射される湯気が顔を直撃し、眼鏡が曇ること曇ること。
グラスの反逆かこれは。嫌がらせをされ続ける。
足を持てば持ちやすいかと思いましたが、その考えは浅はかでした。
そもそもワイングラス・ブランデーグラスは、少量注いで空気に触れさせ、狭い口から上がる香りを楽しむもの。
こんなフルでヌードル食べることなんか想定している訳が無い。
重さで不安定に揺れるそれを、細い足を持つだけでどうにかバランスを取ることに。
左手に力が入るわ、顎に水蒸気・眼鏡に湯気が当たって湿るわ、しかもフォークが当たると「ゥグィ」という最高に耳障りな音が鳴るわ、何にも良いことがない。
驚きは、肝心のスープを啜る時にも降臨。
アッツアツ。
口の中全てが焼け爛れるかと思いました(怒)
どうも膨らんだ胴のお陰なのか冷めにくい、もとい温度が変化しにくい様子。
酒が温くなりづらいってことでもあるのかな。
▲とにかくこれ以上無いってくらい酷かった
⑥木製コップ
木で出来ているというだけで、どうしてこんなに良いものに見えるんでしょうか。
どこぞのCMみたいに、無駄にヌクモリティを感じることになるかも知れません。
▲完成。やはり良いものに見える
ぼんやりと熱を伝える滑らかな木肌を手で包み、実食。
ズズズ。
良いものになりました(断言)
まず見た目。
木というだけでお洒落感が増すだけでなく、森の小屋でエコい生活をしている穏やかなスローライファーに作ってもらったようなご飯に見えます。
一時期木のスプーンだのトレイだのが妙に流行った時期がありましたが、皆お洒落スローライファーになりたい願望でもあるんでしょうか。
それから味に影響が無い程度に香る木の香り、これは人によっては嫌がるかも知れませんが、個人的には全く嫌味がなく好ましく思います。
木の香りで、ただお湯を注いだだけのチキラーが「一手間加えたちょっと良いもの」となりました。
持ちやすさは最早言わずもがな。
じんわり伝わる温かさは見た目通り、それが木の見た目と相まって「自然由来の温もり」「リラクゼーション」という単語が想起されるのです。
仕事で疲れた貴方、スローライファーになりたい貴方、木の器でチキラーを食べて癒やされてみては如何でしょうか?
▲そして木の器は値段が高い(このマグは四桁)
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●オマケ:パラフィン追加
さてここまで食べてきましたが、明らかに何か足りないですよね?
そうです、当時の味を再現していません。
冒頭で述べた通り、日清カップヌードルは、環境ホルモン問題が出ようがそれで同業他社が紙コップに素早くシフトしていこうが、お構いなく紙コップ化を渋った。
それだけ安藤百福氏が食したチキラーin紙コップは、脳裏に刻み込まれていた忘れがたき不味。
とはいえ、今現在の紙コップはパラフィンなど使われていません。
※海外とかド田舎の個人商店とかにあったなどの特殊ケースは考えません。
ではどうしたらいいのか。
▲簡単なことだ
▲純度100%のパラフィンワックスを
▲僅かに削ってチキラーに入れるだけ
紙にコーティングされていた量なんてたかが知れてますし、況してや溶けたのはその一部のみ。
ゴマを摺った時に出るゴマの皮レベルの、カスともいうべきサイズの欠片をin。
※当然ですが、パラフィンワックスは食べ物ではありません。
い ざ 実 食 。
▲!!
あっ、駄目だ。
これは食べ物じゃない!
紙コップ臭いとかのレベルじゃありません。
明らかに今体に入れてはいけないものを経口摂取しました。
食べた瞬間から頭痛が始まり、続いて胃痛も走る(絶対プラシーボ効果)。
「石油製品だぞこれは……」と一人ぼやいてしまいました。
カネミ油症事件で被害を受けなかった者は、食べた瞬間に異常を感じたといいます。
もしやそれと同じ経験を今しているのでしょうか。
というか自分は分かっててやってるから余計に質悪いですね。
……実はパラフィンワックス自体は、医薬品の添加剤として使われている部分もあり、摂取したからすぐにどうこうなるものではないことは分かっていました。
但し、そこは石油製品。量を間違えると肉腫ができるといった大ダメージは勿論入ります。
まあそんな医療的な話はさておき、とにかくパラフィンが臭い。
臭いだけでも試したい人は、目の前で蝋燭を燃やしまくりながら至近距離でチキラーを紙コップで食べて下さい。
そしてその臭いがそのまま舌に乗ったと思えばOK。
どう考えても食い物ではないことが容易に理解して頂けるかと思います。
紙コップ臭いの一言で済ませた安藤百福氏凄い。
▲パラフィンコップ絶対復活しないで
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【結論】
どう食べても美味い。
※パラフィン入りを除く(当然)
▲やっぱり丼に卵と葱も加えて
作るのが一番美味しい
(これは野菜乗せすぎて
訳分からなくなったチキラー)
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【おまけ:総括短歌】
知らぬ故 生まれた相手の苦肉の策 今や累計400億食
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【Staff】
企画・構成 清水舞鈴
撮影 清水舞鈴
編集 清水舞鈴
制作 清水舞鈴
監督 清水舞鈴
【Special Thanks】
故・安藤百福氏
アメリカのバイヤー殿
スペシャルサンクスまできっちりと読む、画面の前の貴方
で、この検証でコップを沢山購入しちゃった訳ですが、どうしましょうコレ。
別にコレクターでも無いし、しかも注文から半月経って忘れた頃に来たものがあるんですよ。
▲また木のマグ
酒やスープでも入れて使うか……。
The END.